西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)様
JR西日本、生成AIでAPI定義作成・レビュー工程を効率化。
鉄道関連データの外部連携を円滑化し、MaaS需要に応える。
Summary
- API公開時に必要なAPI定義ファイルの作成・検証を自動化する生成AIツールを開発。
- 専門スキルや記述経験を問わず、正確な定義ファイルの作成・チェックを短期間で実現。
- 記述ミスによる手戻りを大幅削減し、API公開までのリードタイムを短縮。
- 巨大システム全般へ生成AIを適用していく「最初の成功体験」を共創。
背景
――システムマネジメント部のご担当業務と、2020年にAPI共通基盤を構築した背景をお聞かせください。
杉本:
当部署では、交通系ICカード「ICOCA」をはじめとしたお客様向けシステムや鉄道設備の検査を支援する業務システム、人事や財務などのバックオフィスシステムなど、社内のさまざまな業務システムの開発・保守運用を担当しています。
API共通基盤を設けたきっかけは、交通系アプリなどを提供する事業者の方々から「鉄道の運行情報や遅延情報などのデータを提供してほしい」という要望が増えたことです。
システム間を1対1で接続する方法では、接続先が増えるたび個別開発が必要ですし、セキュリティ対策の共通化も困難です。また、アクセス急増時に制御ができず社内システムに影響が及ぶリスクもありました。そこで、将来のAPI需要の増加を視野に、API共通基盤を構築し、出入口の一本化を実施したいと考えました。
――API共通基盤の運用にあたって、課題になったことは?
山口:
基盤という入れ物は構築できたものの、基盤にAPIを登録する際に必要となる「API定義ファイル(仕様書)」の作成が、迅速な外部連携のボトルネックとなっていました。ファイルの作成は、各業務システムを担当する開発パートナーや社内エンジニアが担います。
API定義ファイルは世界共通の標準規格に沿って、「接続先URL」や「エラー時の処理」などの項目を記述する特殊なフォーマットです。スペース数やインデントが、ひとつズレただけでも正しく動作しません。
数百行を手作業で正確に記述するのは難しく、作成側とそれを受領してチェックする基盤運用チームの間でやり取りが何度も発生し、長い場合は完成までに1カ月近くかかることもありました。このプロセスの停滞が、そのままAPI公開の遅れにつながってしまいます。
選択
――課題解決のため、生成AIの活用に至った経緯は?
山口:
2025年初頭に、API共通基盤の構築パートナーであるTISIから、「高セキュリティAPI基盤サービス」上で生成AIを活用した「API定義作成支援ツール」の提案を受けたことが始まりです。
当社としても、業務効率化や品質平準化に向けた生成AI活用に大きな関心がありましたが、チャレンジに適した案件が見つからない状況でした。 “API定義の作成”テーマは工数も手頃で効果を確認しやすいこともあり、PoCへと進むこととしました。
――TISIが、同ツールを開発・提案した背景は?
二出川(TISI):
API定義ファイルの作成には専門スキルが求められますが、開発チームにそうした経験者がいるケースは稀です。そのため、受領側の基盤運用チームがチェックし、不備があると作成側に差し戻すことを繰り返す現状を見て、何とか生産性を上げられないかと思っていました。
そこで、エラーチェックやコード作成を自動化できれば、双方の負担やラリーを大幅に減らせると考え、本ツールを独自開発しご提案いたしました。
熊田(TISI): 本ツールの機能は大きく2つあります。ひとつが、設計書との不整合や記述エラーを自動検出する「レビュー機能」。もうひとつが、指示や要件にあわせてコードの自動生成・修正を行う「作成・修正機能」です。
――AIの精度を高める工夫と、セキュリティリスクへの対策はどのように行いましたか?
二出川(TISI):
一般的な生成AI(LLM)をそのまま使うだけでは、JR西日本様独自の仕様やルールを踏まえた実用的なコードの生成は困難です。そのため、APIの仕様や認証ルール、記述の作法などの情報を生成AIに適切に参照させることで、回答精度を高める工夫を施しました。
また、当社の安全なネットワーク環境下でAIを動作させる構成とし、JR西日本様の厳しいセキュリティ基準をクリアした環境で検証を進めました。
検証
――PoCでは、具体的にどのような成果が得られましたか?
熊田(TISI): 今回検証したのは、「エンジニアが作成したコードの記述誤りをAIがチェックし、指示にあわせて自動修正する」という一連のプロセスです。まず、コードの誤り指摘では、「ベテランエンジニアの目視レビュー」で見つけた誤り箇所の87.5%をAIが正しく検出できました。また、指示に基づくコードの自動修正においては、9件の修正指示すべてに対応し、限定条件下ながら高い精度を示しました。
山口: 精度だけでなく、作業時間の短縮効果も絶大でした。従来は、修正作業に1~2時間、レビュー作業には3時間以上を要することもありました。本ツールを使うことで、修正作業は約30分、レビュー作業も数分から数十分程度まで短縮でき、人間による最終確認を含めても大幅に効率化できています。作成側・受領側ともに本ツールでチェックを行うことで、不備による差し戻しのラリーが削減され、有効性を確認できました。この結果を踏まえ、現在は本番運用を開始しています。
――AIがゼロからコードを生成することも可能なのでしょうか?
二出川(TISI): はい。本ツールを開発した際、「ゼロからのコード自動生成機能」も必須要件として盛り込みました。API定義ファイル作成を担当する開発チームは、開発の初期段階で「システムの開発目的」や「改修の目的」などを本ツールに読み込ませれば、たたき台となるAPI定義のコードを自動生成できます。この初期段階で生成されるコードの完成度は5割程度で、残りはブランクになっています。
杉本: あとはシステム開発を進めながら、そのブランクを人間が穴埋めしていけば品質を担保したAPI定義を効率的に作成できるため、ゼロから書くよりもハードルを大きく下げることができます。現在は本番運用へと移行しており、開発パートナーや社内エンジニアに対しても、API定義作成の初期段階から積極的な活用を呼びかけています。
展開
――今後、「高セキュリティAPI基盤サービス」の「API定義作成支援ツール」を活用することで、どのような効果が期待できますか?
杉本:
現時点でAPI共通基盤を介して外部連携している業務システムは20程度あり、MaaS需要の高まりとともに今後さらに増えていく見込みです。直近の例では、2025年の大阪・関西万博でのシャトルバスの予約連携でも、このAPI共通基盤が活躍しました。
今後も、開発チームと基盤運用チームの双方が本ツールを活用して、円滑に連携することで、新たなサービス連携やデータ活用の推進につなげていきたいと考えています。
――生成AIを今後どのような領域で活用していくお考えですか?
杉本: 今回のPoCおよびその後の本番運用を通じて、生成AIが実際のシステム開発・運用の現場で活用できることを確認できました。当社は社会インフラを支える企業として非常に大規模かつ複雑なシステム環境を運用しており、さまざまな領域で生成AI活用の機会があると実感しています。要件定義書や設計書のレビュー、テスト工程の自動化など、開発・運用のプロセス全般へと適用領域を広げていきたいと考えています。
――最後に、TISIの印象・今後の期待をお聞かせください。
山口: TISIは金融機関など高度なセキュリティや安定稼働が求められるシステムで豊富な実績があり、今回のAI活用にあたってもセキュリティ面で非常に強い安心感と信頼感がありました。今後も技術面のアップデートを踏まえつつ当社の実情に寄り添った提案を積極的に実施いただくことを期待しています。
杉本: 現場の課題感に寄り添い、最初のPoCから成果の可視化まで伴走してくれたTISIには大変感謝しています。今後、さらに高度なAI活用やシステム改革に挑戦していくにあたって、新たな提案に強く期待しています。
Company Data
西日本旅客鉄道株式会社
本社: 大阪府大阪市北区芝田二丁目4番24号
創立: 1987年
事業内容: モビリティ業、流通業、不動産業、旅行・地域ソリューション業 など
URL: https://www.westjr.co.jp/
TISI担当者から
TISI株式会社
デジタルイノベーション事業本部
サービスプラットフォーム事業部
サービスプラットフォーム第1部
フェロー
二出川 弘
TISI株式会社
デジタルイノベーション事業本部
サービスプラットフォーム事業部
サービスプラットフォーム第1部
シニアアソシエイト
熊田 健太郎
API連携という領域は、一見するとAIの活躍の余地が小さく見えます。しかし今回、JR西日本様とともにAIによるAPI公開のリードタイム短縮という可能性を模索し、確かな道筋を描くことができたことをうれしく思います。
JR西日本様は確固たる社会インフラを提供すると同時に、生成AIをはじめとする先進技術へ果敢に挑まれています。AI関連のイベントで、自社の取り組みを発表されたセミナーも聴講させていただきましたが、こうした従来の枠組みにとらわれない柔軟な風土があってこそ、今回の取り組みにご協力いただけたのだと実感しております。
今後は本格運用頂いている本ツールのさらなる定着を進めつつ、データを提供する側・利用する側の双方がより使いやすいAPI共通基盤を目指し、JR西日本様とともにさらなる改善に取り組んでいきます。
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