TISIと大阪大学 量子情報・量子生命研究センター、量子コンピュータで実用規模10,000件超の組合せ最適化を商用最適化ソルバーと同精度で達成
~持続可能な社会を支える電力需給最適化を実証~
2026年7月30日
TISI株式会社
国立大学法人大阪大学
TISインテックグループのTISI株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役 社長執行役員:岡本 安史、以下:TISI)と、国立大学法人大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(所在地:大阪府豊中市、センター長:北川 勝浩、以下:QIQB)は、量子最適化アルゴリズム「パウリ相関エンコーディング※1(以下:PCE)」を活用し、従来の量子計算では困難であった大規模組合せ最適化問題への適用可能性を実証したことを発表します。
本実証では実社会ユースケースとして10,000件以上の電力リソースを対象とした電力需給最適化に量子コンピュータを活用し、商用最適化ソルバー※2と同等精度の結果が得られることを確認しました。これにより、電力需給の安定化や脱炭素化などエネルギー分野をはじめ、物流・金融・製造など幅広い産業領域において、高度な最適化課題の解決が期待できます。
また、本取り組みは2026年7月に量子技術の産業応用を扱う国際学術雑誌「Physical Review Applied」に投稿し、現在査読過程※3にあります。さらに、本成果を発展させた研究内容は、量子技術分野の国際会議 IEEE Quantum Week 2026(QCE26)のTechnical Paperとして採択されており、2026年9月にカナダ・トロントで発表予定です。
※1 量子最適化問題に対する変分的手法の一つとして2025年に提案されたアルゴリズム
https://www.nature.com/articles/s41467-024-55346-z.pdf(英文)
※2 複雑な最適化問題を解くため、企業向けに販売されている専用ソフトウェアやツール
※3 プレプリントをarXiv(arXiv:2607.24722)にて公開中
http://arxiv.org/abs/2607.24722
量子コンピュータによる分散電力リソースの一括最適化イメージ
背景
物流計画、金融ポートフォリオ、製造スケジューリング、エネルギー運用など、さまざまな社会課題で良い選択を導くために、「組合せ最適化問題」という手法が活用されています。しかし、対象規模が増えるにつれ計算量は急激に増加するため、大規模問題を高速かつ高精度に解くことが課題となっています。その中でも電力需給調整は、多数の電力リソースを組み合わせる必要があることから、大規模な「組合せ最適化問題」に対応する必要があります。
一方で、再生可能エネルギーの導入拡大や需要家ニーズの多様化により電力事業者やリソースアグリゲーターには、需給バランスを安定的に保ちながら、調達コストや需給リスクを抑える高度な運用が求められています。電力需要は利用する家庭や事業者ごとに特性が大きく異なることから、多数の電力リソースの最適な組み合わせを導き出すには、膨大な計算量を要し、従来の手法では対応が困難でした。このような背景を受け、TISIとQIQBは量子計算技術を活用し、大規模な組合せ最適化問題への適用可能性を検証する共同研究を進めてきました。
研究内容と成果
2025年に提案されたPCEは、多数の最適化変数を少ない量子ビット数で効率的に表現できるため、従来は困難だった大規模な組合せ最適化への適用が期待される手法です。本研究ではこのPCEを活用し、従来検証である約20需要家規模から10,000件超規模へと計算対象を拡張しました。
実証を通じて、量子計算による大規模計算に対しても、高精度な最適化結果が得られることを確認しました。これにより、需給安定化と調達電力の変動抑制を両立する新たな手法としての有効性が示されました。
量子計算により対応可能な需要家数を大幅に拡張
PCEを活用することで、従来困難であった大規模な組合せ最適化問題に対応可能。これにより、10,000件超の需要家ポートフォリオへと計算規模を大幅に拡張することに成功。利用者が増えてモデルが複雑になっても、必要な資源(量子ビット)を効率良く抑えられることを確認。
最小限の量子ビットで大規模計算に対応可能とするイメージ
商用最適化ソルバーと同等精度の結果を確認
量子計算で算出した電力の最適な組み合わせが、既存の商用最適化ソルバーが出した最適解と高い精度で一致することを確認。量子最適化の信頼性を確かめるとともに、大規模な電力需給最適化にむけた実用化の可能性も確認。
電力需要ポートフォリオ最適化結果の比較
貪欲法による近似解(左)、PCEを用いた量子計算結果(中央)、商用最適化ソルバーによる最適解(右)。貪欲法では需要配分にばらつきが見られる一方、PCEを用いた量子計算の結果は、希望調達電力を満たしつつ標準偏差が抑えられており、最適解と高い精度で一致することを確認。
本成果の意義
本成果は、量子コンピュータを活用したPCEが、10,000件超の実用規模の組合せ最適化問題に適用可能であることを示したものです。これにより、量子技術を活用した業務課題の解決や効率化について、企業が具体的なユースケースを用いて検証できる段階に近づいています。電力分野に限らず、物流、金融、製造など多様な業界における複雑な最適化問題への応用が期待されており、業務効率化や競争力向上への貢献が期待されます。
今後について
本成果を踏まえ、TISIとQIQBは、これまでの量子最適化の取り組みに加え、量子機械学習を含む新たな量子アルゴリズムの開発にも着手し、その適用領域を拡大します。これにより、データ解析や予測精度の向上など、最適化の前工程を含む幅広い業務領域に対しても量子技術を活かし、実業務で有効性を検証できる基盤を整えます。
TISIは、実データを用いた実証フィールドでの効果検証や、量子ハードウェア特性を踏まえた性能向上を進めます。2026年度中に量子最適化アプリの試作を行い、TISIの脱炭素ソリューション「Carbony VPPプラットフォーム」との連携など、実運用での適用可能性を検証する予定です。
また、量子機械学習との融合や、物流・金融・製造分野への適用検討も進め、量子アルゴリズムの社会実装をさらに拡大していきます。
特記事項
本研究開発は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点」(JPMJPF2014)、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「知的量子設計による量子ソフトウェア研究開発と応用」(JPMXS0120319794)による支援を受けて実施されました。
TISI株式会社 技術本部 戦略技術センター セクションチーフ 吉岡 匠哉のコメント
従来は困難であった大規模な需要・リソースの組合せ最適化において、商用ソルバーと同等精度の結果が得られたことで、量子最適化の実用性と可能性を示すことができました。今後もエネルギー分野をはじめとするさまざまな最適化課題に対し、量子技術のさらなる社会実装に向けた取り組みを加速します。
大阪大学 大学院基礎工学研究科/量子情報・量子生命研究センター兼任 藤井 啓祐教授のコメント
量子コンピュータを用いた組合せ最適化については、QAOA(quantum approximate optimization algorithm)についてこれまで研究が行われてきました。しかし、量子ビット数に対して扱える変数が少ないという理由から現実的な規模の問題でベンチマークを取ることすら難しい状況でした。本研究では、パウリ相関に変数を埋め込むPCEを用いることで大規模な問題で量子コンピュータを用いた最適化のベンチマークを取ることができました。提案されて間もないPCEに対して、今回うまく性能を引き出すためのノウハウを構築した結果、古典の最適化ソルバーと同等の性能を出すまで性能を改善することができました。今後、更なる改善が期待できます。
共同研究メンバー
TISI株式会社
技術本部 戦略技術センター
副センター長 笹田 啓太
セクションチーフ 吉岡 匠哉
国立大学法人大阪大学
大学院基礎工学研究科
教授 藤井 啓祐 (量子情報・量子生命研究センター兼任)
博士前期課程大学院生 臼杵 莉玖
博士後期課程大学院生 中野 裕一郎(研究当時/2026年3月修了)
TISI株式会社について(https://www.tisi.jp/)
TISインテックグループのTISIは、金融、製造、流通、サービス、公共、通信など多様な業種で培った知見とAIをはじめとする先進技術を融合し、4,500社以上のお客さまと社会変革と価値創出を推進しています。300を超えるサービス・ソリューションを国内外で提供し、業務の効率化・高度化を通じて人材不足などの社会課題を解決し、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。
国立大学法人大阪大学について( https://www.osaka-u.ac.jp )
大阪大学は、大阪の政財界ならびに大阪府市民の強い要望を受け、1931年に帝国大学の一つとして創立されました。その精神的源流は江戸時代の学問所であった懐徳堂と適塾に見出すことができます。2007年には大阪外国語大学と統合し、外国語学部のある総合大学になりました。人文・社会科学系、医歯薬学系、理工学系の充実した11学部、15研究科、6附置研究所等を擁する我が国有数の研究型総合大学です。
2031年に創立100周年を迎える大阪大学は、「地域に生き世界に伸びる」をモットーに、社会との共創により、地域から世界に及ぶさまざまな課題に果敢に挑戦し解決を図ることで「生きがいを育む社会」を実現していきます。
本件に関するお問い合わせ先
報道関係からのお問い合わせ先
TISI株式会社 企画本部 コーポレートコミュニケーション部 髙島
E-mail:pr@tisi.jp
大阪大学 量子情報・量子生命研究センター
企画室 プレスリリース窓口
E-mail:press_qiqb@ml.office.osaka-u.ac.jp
本件研究に関するお問い合わせ先
TISI株式会社 技術本部
戦略技術センター 笹田/吉岡
E-mail:stc-info@ml.tisi.jp
大阪大学 量子情報・量子生命研究センター
企画室 プレスリリース窓口
E-mail:press_qiqb@ml.office.osaka-u.ac.jp
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