地域から始まる新たな資金循環
~デジタル証券が拓く、地域課題解決と関係人口創出~
はじめに
個人が、応援したい企業や地域に自ら資金を託す――そうした「参加型」の資金調達が、少しずつ広がっています。クラウドファンディングに始まり、近年はブロックチェーンを使ったデジタル証券によって、債券という形でも個人が直接支え手になれるようになってきました。
その背景の一つに、資金の流れへの問題意識があります。債券を発行して集めた資金の利息は、通常、引き受けた金融機関や機関投資家へ支払われます。地方の発行体から見れば、その多くは都市部の投資家へ流れ出ていくお金です。
では、同じ債券を、自社の会員や地域の住民、施設の利用者へ販売することができたらどうなるでしょうか。発行体は利息に加えて、ポイントや優待、宿泊券といった特典を付けることができます。受け取った投資家が近くの店で買い物をし、利用者が再びその施設に泊まれば、利息や特典は地元での消費や事業への再購入・再訪として、経済圏の内側に還ってきます。購入者は、単なる資金の出し手ではなく、その地域や事業を応援する立場になり、発行体との関係を継続していくことも期待されます。
近年では、資金調達の手段としてブロックチェーン上で記録・管理される“デジタル証券(セキュリティトークン、以下「ST」)”が誕生し、国内における公募での累計発行額は約3,490億円にも達しています(2026年7月末時点)※。最近では、発行体である企業が自社のカード会員等に向けて直接募集・販売を行う「デジタル社債」など、証券会社等の販売会社を介さない資金調達の取組みも広がりつつあります。
また、地方債についても、2026年6月に公布された改正地方財政法 により、デジタル地方債の発行が可能となるため(2027年4月1日施行)、今後さらなるST市場の拡大が期待されています。
本記事では、2026年7月7日に開催したTISインテックグループによる「TIS INTEC Group BUSINESS SUMMIT2026」にて、STをテーマとしたセッション「地域から始まる新たな資金循環 ~デジタル証券が拓く、地域課題解決と関係人口創出~」を振り返りながら、対談形式で語られた地域におけるST活用のポイントをご紹介します。
※ 出所:BOOSTRY「日本セキュリティートークン(ST・RWA)市場ダッシュボード」
目次
本対談の登壇者
TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
成本 治男 氏
~不動産・信託・デジタルアセットを横断するファイナンス法務の専門家~
- 大手国内証券会社のアセットファイナンス部門への出向経験を有し、以来、流動化・証券化等のストラクチャードファイナンスのほか、日本版ESOPや知的財産信託、その他多様な信託活用スキームを得意分野とする
- 近時はクラウドファンディングやST、その他のFintech・PropTech(不動産テック)に関わるリーガルサービスに多く携わる
- 東京・シンガポールを拠点に、RWAトークンをはじめとするデジタルアセット・Web3関連案件にも幅広く携わる
広島大学
IDEC国際連携機構
Center for Global Partnership(CGP)
CGPセンター長(特命教授)
平田 仁 氏
~公共セクターにおける金融スペシャリスト/国際協力・地域連携推進の実務家~
- 海外経済協力基金、国際協力銀行、国際協力機構(以下「JICA」)において、国際協力・開発金融・プロジェクト推進に長年従事
- カンボジア事務所次長、バングラデシュ事務所長、財務部長などを歴任し、現場・制度・財務の各面から開発協力に携わる
- 現在は広島大学にて国際連携を担い、地域と国内外の人材・知見をつなぐ取り組みを推進
(モデレーター)
TISI株式会社
金融ビジネス企画営業部
エキスパート
苫米地 啓
~投資家ビジネスと地域金融の知見/ST事業の社会実装を推進~
- 大手信託銀行にて長年、機関投資家・法人投資家向けの事業企画、新規事業領域開拓等を担う
- VC立ち上げ、地域での資金還流にかかる戦略等リード
- 2024年TIS入社。次世代型金融サービスの企画・推進を担う。STプラットフォーム「STLINK」のサービスオーナー
1. 企業におけるSTの活用 ~企業メリットと投資家メリット~
Q. 企業が自社の顧客である会員やファンに直接STを募集・販売する事例が出てきていますが、
企業と投資家にとってのメリットは何なのでしょうか。
成本氏:
まず、投資家にとってのメリットとしてはいくつかのリターンが考えられます。
丸井グループやドン・キホーテなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどは、それぞれ自社のカード会員向けにデジタル社債を発行しており、金銭的リターンとなる利率と、非金銭的リターンとなる自社ポイントを加えています。
また、世界的に有名なダイビングスポットにある宿泊施設「ネイチャーイン大瀬館」では、老朽化した建物の改修資金を、主にダイバーから調達し、金銭的リターンの利率に加えて、投資金額に応じた宿泊券、ダイビング・タンクの割引券といった非金銭的リターンとして魅力ある特典を組み合わせています。そして、「なにかいいことをした」「誰かの役に立っている」という満足感が得られる点も特徴です。
他方、企業にとってのメリットは、従来の資金調達で負担となっていたコストが削減できる点ではないでしょうか。STであれば直接投資家から資金調達できるため、中間コストが削減でき、また金銭的リターンだけではなく非金銭的・社会的/心理的リターンを組み合わせることで、調達コストの低減につながりうる点、そして、投資家と直接繋がることで得られる個人データをマーケティングに使える点もメリットになるかと思います。
■成本氏による投資家が受け取るリターンの分類
① 金銭的リターン ── 利息・配当
② 非金銭的リターン ── ポイント、モノ、優先権といった特典
③ 社会的/心理的リターン ── いいことをした、誰かの役に立っている、応援したいという気持ちの充足
企業が機関投資家から資金調達する場合、①だけで勝負しなければなりませんが、一方、個人投資家の場合は、②を①の現金に近い価値として受け取られる方も一定いると思います。さらに③があれば金銭的なリターンが少し低くても、お金を出そうという動機が働きます。こうして①から③の総合的なリターンで訴求できるため、機関投資家からでは困難だった資金調達も可能になるのではないかと考えられます。
■企業(発行体)のメリット
2. 投資家の共感を得るための施策とは
Q.投資家に共感して投資していただくための金銭的リターン以外の魅力について、
どのような取り組みをされているのでしょうか
平田氏:
JICAは年間600億円〜800億円程度の債券を発行していますが、できるだけ特徴のある起債を心がけてきました。2016年にはICMA(国際資本市場協会)のフレームワークに則り、日本で初めてソーシャルボンドを発行し、2023年からはサステナビリティボンドを発行しておりますが、その資金が何のために使われて、どのような効果が出ているのか、ということを分かりやすく届けるための工夫をしています。
■効果に関する情報開示のポイント
- 定量的に示す ―― 防災の例では、フィリピンで5年・10年・20年確率の洪水が発生した場合に、被害がどれぐらい小さくなり得るのかまでを説明
- ストーリーを伝える ―― 調達した資金によってどのような効果があり、どのような人たちが影響を受けるのか、という数字だけでは伝わらないストーリーを届ける
また、JICAでは現在、TISI・岡三証券とともにデジタル債の発行に向けた研究・実証実験を行っていますが、その中で調達した資金がどのような効果や影響に繋がっているのかを可視化するため、実際の現地の状況などをXR空間上で体験できるバーチャルツアーの計画もしています。
実際のデジタル債発行の際には、このような素晴らしい体験という付加価値の実現もできれば非常に面白いなと思っています。
3. 地域におけるSTの活用 ~地方債のデジタル化~
Q. 2027年4月以降、地方債もデジタル化が可能となりますが、どのような活用と期待が考えられるのでしょうか
成本氏:
地方債は、一部の個人向けにも発行されていますが、主に金融機関や機関投資家向けに発行・購入されており、県外からの購入に対する利息においては、地域から見れば資金流出となります。地域の方に購入いただければ、利息は地域経済圏の中で循環します。しかし、長らく続いた低金利のもとで、個人向け地方債は利回り面での魅力不足が課題となっています。
そこで、利回りなどの金銭的リターンだけではなく、非金銭的・社会的/心理的リターンを組み合わせることで、地方債を再設計・再発明することができるのではないか、多くの方々からの資金調達ができるのではないか、といった発想が生まれています。そして、その受け皿となるデジタルでの取り扱いを可能にするのが、地方債のデジタル化を可能とする地方財政法の改正です。
■デジタル地方債の意義
- 個人が広く参加できる ―― 個人向けデジタル債が実現すれば、住民が地域の事業やプロジェクトを支える担い手となり、域外の関心層や関係人口にも保有の裾野が広がります。地方債の引き受け手の安定化にもつながります。
- 資金が域内で循環しやすくなる ── 地域の住民や関係人口が保有すれば、利息や償還金が域外へ流出せず、地域経済圏の中で循環する可能性が高まります。
- 調達コスト面でも利点がありうる ── 中間コストの省略や、原価を抑えた特典の活用により、発行体にとってはトータルの調達コストを抑えられる可能性があります。
4. デジタル地方債のユースケース
Q.デジタル地方債において、今後どのような販売・運営が考えられるのでしょうか
成本氏:
発行体は地方公共団体です。自己募集も制度上は可能ですが、募集や事務を自治体だけで担うのは負担が大きく、地域の事業や住民をよく知る地域金融機関が販売や事務を担う形が考えられます。その強みは特典の受け渡しにも表れます。デジタル上で届けにくい特典は、窓口で渡すことができます。
また、今後キーとなってくるのは、ステーブルコインやトークン化預金といった送金も含め、すべてオンチェーンで完結すれば、人や事務コストが下がり、また事務手間のコストが下がれば、毎月利払い型の債券も可能になるかもしれません。
発行体と地域の個人が直接つながり、地域金融機関がその販売や事務、関係づくりの担い手として寄り添う。そうした形が広がっていくことが、大いに期待されます。
■デジタル地方債のユースケース案
5. 広がるSTの活用領域
Q. STは、地方債以外でも、例えばプロジェクトや公共施設などへの活用の期待もあるのでしょうか。
また、留意点などはありますか。
成本氏:
そうですね、地方債に限らず、個々のプロジェクト単位での資金調達も当然あり得ると思っています。不動産に対する投資では不動産STがありますが、今まではPFI、PPPで手がけていたような公共的な意味を持つアセットや施設で、機関投資家の資金に加えて、個人からの直接金融を組み合わせるという形はあり得るのではないかと思います。
平田氏:
広島大学では「Town&Gown」という、東広島市や呉市などと一緒に自治体・大学・企業を結んで地域課題の解決に向けた取り組みを進めていますが、アイデアを実現するには必ず「どうやってファイナンスするのか」という問題が出てくると思います。デジタル債はその一つの手段になり得ますし、応援したい、この社会課題を解決したいという地域の方々が投資をされる可能性は大いにあるのではないかと期待しています。
成本氏:
留意点としては、公平性と透明性でしょうか。特に地方債では、同じ地域の住民でも、地方債を購入する住民と購入しない住民が生じるため、何を特典としてつけるのかは慎重な検討が必要だと思います。
また、透明性に関してはブロックチェーンとの相性が良く、配当の支払いだけでなく、ステーブルコインやトークン化預金を使えば、より資金の透明性を持たせた活用の可能性もあるのではないかと思います。
TISIの「STLINK」サービス
TISIが提供する「STLINK」サービスは、STの発行、管理、償還までの業務を一気通貫でご支援するSTプラットフォームです。
導入にあたってのシステム構築や運用が不要なSaaS型でご提供します。
もっとも、システムがあればSTによる資金調達が成立するわけではありません。
これまでに挙がった論点でもある、金銭的リターン以外のリターンをどのように設計するか、調達した資金による効果などをどのように伝え続けるか等、コンセプトや商品設計が課題となります。
TISIは、ST発行・管理等の業務支援基盤のご提供に加え、そのような課題に関するご支援・サポートもいたします。
- 企業や地域への共感・応援を促すような商品設計 ── 誰に、どのように発行・販売するのかという投資コンセプトの検討段階から伴走いたします。また、ポイント・優待などの特典のアイデア創出についてのご支援・サポートも可能です。
- 資金使途と効果を伝え続ける仕組み ── 投資家が投資した資金がどのように使われ、どのように活用され、どのような効果があったのかを発行後も継続して発信することで、投資家の理解を深め、応援の気持ちを後押しする仕組みづくりを支援します。
- STの導入に向けた取組み ── ST導入には、様々な関係者との連携や調整が必要となります。取組み内容に応じて、適切なパートナーとの連携体制を構築し、円滑な導入に向けたご支援・サポートをいたします。
>「STLINK」サービスのご紹介資料・お問合せ
資料では、STの基礎から、国内のST発行事例、「STLINK」サービスの機能、TISIのST領域における取り組みなどをまとめています。
デジタル社債、デジタル地方債などSTをご検討の際に、ぜひ本資料をご活用ください。