AIエージェントでシステム運用を高度化
AWS活用(Strands Agents/Step Functions)のTISI実践事例
更新日:2026年9月17日
サービスプラットフォーム事業部 サービスプラットフォーム第1部 平山ビクトル良勝(左)
サービスプラットフォーム事業部 サービスプラットフォーム第1部 シニアアソシエイト 渡邉千春(中)
サービスプラットフォーム事業部 サービスプラットフォーム第1部 シニアアソシエイト 浦上寧々(右)
ITシステムが複雑化・多用化が進む中、従来の運用手法では迅速かつ高品質な対応を維持することが難しくなっています。障害対応やシステム状況の把握、関係部門との調整など、運用現場が担う業務は多岐にわたり、その負荷は年々増大しています。
本記事では、TISIの運用現場が抱える課題に対し、社内で実践しているAIエージェントを活用した運用高度化の取り組み事例をご紹介します。システム運用の効率化や高度化を検討されている方々の参考になれば幸いです。
■目次
1. 運用現場が抱えていた課題
私たちは、TISIが提供する「デジタル基盤オファリングサービス」の運用を担当しています。本サービスでは、多数のお客様に対して、多様なシステム・サービス基盤を提供しており、運用対象となるシステムやサービスは多岐にわたります。それに伴い、管理対象となるAWS環境も、複数のアカウントに分散しています。
このような環境では、事業規模の拡大に伴い、次のような運用上の複雑性が増していきます。
- 運用対象となるシステム・サービスの増加
- 管理対象となるAWSアカウント数の増加
- 対応すべき関係者(顧客・社内他部門)の増加
こうした規模の拡大は、情報の把握や関係各所との調整コストを押し上げる要因となります。その結果、従来の人手中心の運用スタイルでは、対応スピードや品質を維持することが困難になりつつありました。
そのためTISIでは、運用対象が拡大し続ける環境においても、安定的かつ高品質な運用を実現するための仕組みとして、AIエージェントの活用を推進しています。
次項では、TISIが従来の人手中心による保守運用で抱えていた課題をご紹介します。
1-1. 情報把握に時間を要する運用体制
障害発生時の状況把握には、社内のセキュリティルームに設置された実端末での確認が必要でした。そのため、障害内容の確認や影響範囲の把握、対応方針の判断までに時間を要し、迅速な初動対応が難しい状況となっていました。
また、24時間365日の稼働が求められる深夜・休日の対応に加え、限られた時間内での的確な判断を迫られる場面も多く、運用担当者の業務負荷増大や確認漏れのリスクが大きな課題となっていました。
1-2. 関係部門との調整負荷の増大
TISIが提供する「デジタル基盤オファリングサービス ※」の運用担当者には、社内のさまざまな部門から日々多くの依頼や問い合わせが寄せられます。そのため、情報収集や依頼内容の確認、関係者との調整に多くの工数が発生し、運用担当者の業務負荷が増大していました。
※顧客のニーズに合わせて、「インフラ基盤」「サービス基盤」「サービスアーキテクチャコンサルティング」を最適な形に組み合わせて提供するTISIのサービス
1-3. 知識の属人化による対応品質のばらつき
特定のシステムに関する知識や過去の対応ノウハウが、一部の有識者に集中していました。そのため、障害発生時には有識者への確認が必要となるケースも多く、迅速な状況把握や意思決定を妨げる要因となっていました。
また、有識者の不在時には調査や判断に時間を要することがあり、情報把握や意思決定がさらに困難になることで、対応スピードや品質にばらつきが生じるリスクを抱えていました。
2. AIエージェントを活用した運用高度化
TISIでは、「情報把握に時間を要する運用体制」「関係部門との調整負荷」「知識の属人化」といった課題の解決に向けて、AIエージェントを活用した運用高度化に取り組んでいます。
AIエージェントを活用することで、障害発生時の調査や分析、定期的な環境確認などを自動化・効率化できるようになります。その結果、対応スピードの向上や運用品質の標準化を実現し、運用担当者の負荷軽減にもつながります。
2-1. AIエージェントが運用高度化にもたらす価値
AIエージェントは、人に代わって情報収集や分析、判断支援を行う仕組みです。
例えば障害発生時には、本番環境の情報を自動的に収集・分析し、原因調査や影響範囲の把握を支援します。また、本番作業前には環境情報を確認し、設定内容の妥当性をチェックすることで、ヒューマンエラーの防止にも貢献します。
さらに、障害対応だけでなく、環境確認や定期点検などの日常的な運用業務にも適用できるため、継続的なシステムおよび運用品質の向上が期待できます。
2-2. 用途に応じたAIエージェントの使い分け
TISIでは、AIエージェントを、以下の2つの方式で使い分けています。
- 定型業務向け:AWS Step Functions
処理フローやプロセスがあらかじめ定義されている業務には、「AWS Step Functions」を活用しています。複数の処理をワークフローとして定義し、自動実行することで、依頼対応や定型オペレーションの効率化を実現しています。 - 調査・分析業務向け:Strands Agents
一方で、障害調査や環境分析など、状況に応じた柔軟な判断が求められる業務では、「Strands Agents」を活用しています。従来は有識者に頼らざるを得なかった調査を、AIが必要な情報を収集しながら状況を分析し、自律的に処理を進めることで、迅速な初動対応を実現しています。
2-3. AWS Step Functionsとは?
「AWS Step Functions」は、「ステートマシン」と呼ばれるワークフローを作成し、一連のプロセスを自動化できるサービスです。
例えば、AWS LambdaなどのAWSサービスを組み合わせ、特定の順序で自動実行させる「マイクロサービスのオーケストレーション」などが可能です。
また、コンソール上でワークフローの視覚化や編集、デバッグが行えるため、各ステップの状態やアプリケーションが期待通りに実行されているかを簡単に確認できます。
2-4. Strands Agentsとは?
「Strands Agents」は、2025年からAWSが提供するオープンソースのAIエージェントフレームワークです。TISIでは、自社のAWS環境に合わせてカスタマイズした上で活用しています。
Strands Agentsは、あらかじめ設定したプロンプトにもとづき、環境調査や設定確認などを自律的に判断しながら実行できる仕組みを備えています。
大きな特徴は、「モデル」「ツール」「プロンプト」の3つの要素を組み合わせることで、AIエージェントをシンプルに構築できる点にあります。
<Strands Agentsの構成フロー(モデル・ツール・プロンプト)>
- モデル
Amazon Bedrock経由のモデルに加え、利用環境に応じてClaudeやOpenAI系モデルなども利用できます。ユーザーの指示や途中結果をもとに、次に実行すべき処理や使用するツールを判断します。 - ツール
API呼び出しやファイル操作、検索、環境情報の取得などをツールとして登録できます。標準ツールに加えて、独自ツールの追加も可能です。 - プロンプト
エージェントの目的や役割、制約条件を自然言語で定義します。「何を達成するか」「どのようなルールで動くか」を明確にすることで、モデルが適切なツールを選択しながら処理を実行します。
3. TISIのAIエージェント導入事例
ここからは、AIエージェントを使ったTISIの具体的な取り組み事例と、その効果について紹介します。
3-1. 依頼対応の自動化
社内の複数部門とのコミュニケーション負荷を削減するために、AWS Step Functionsを活用し、Teamsへの投稿を起点とした設定変更に関する修正依頼など、関係部署からのさまざまな依頼対応を自動化しています。
関係部門からの依頼がTeams上に投稿されると、内容が自動的にAWS環境に連携され、AWS Step Functionsが処理を開始します。依頼内容にもとづき、テンプレートコードの取得からAIによる修正までを自動的に実行し、修正結果をTeamsに通知するため、運用担当者は修正済みのコードを適用するだけで対応を完了できます。
※本取り組みではIaC(Infrastructure as Code)の概念にもとづき、自動化基盤を構築しています。IaCとは、AWS環境をコンソールから手動で設定するのではなく、あらかじめ記述したテンプレートやコードによって、インフラ環境を自動的に構築・管理する手法です。
<Teams起点の依頼対応自動化フロー>
3-2. 障害一次対応の自動化
障害発生時には、AIが本番環境の状況を自動的に調査し、その結果をコミュニケーションツール「Teams」へ通知する仕組みを構築しました。
障害発生を契機に、Strands Agentsが対象アカウントへ自動的にアクセスし、ログ取得や原因分析を実施します。従来は30分以上を要するケースもあった初動調査・報告プロセスは、各種作業の自動化により10分程度まで短縮できるようになりました。
また、AIが出力する文章を「1年目の担当者でも理解できるレベル」に設定することで、専門知識や経験年数に依存せず状況を把握できるようになり、対応品質の標準化にも寄与しています。
<障害発生から通知までの一次対応自動化フロー>
3-3. AWS環境問い合わせ対応の自動化
一次調査に加え、本格調査においてもAIエージェントを活用した調査迅速化の仕組みを構築しました。
AWS環境に関する問い合わせをTeamsに自然言語で投稿するだけで、Strands Agentsが自律的に環境内を調査し、Teams上で回答を出力する仕組みです。問い合わせ内容にもよりますが、多くの場合数分程度で回答を得られる仕組みを実現しています。
これにより、セキュリティルームへの移動や実端末での操作といった対応が不要となり、時間や場所に依存せず必要な情報を取得できるようになりました。その結果、対応スピードの大幅な向上につながっています。
<AWS環境問い合わせ対応自動化フロー>
3-4. コスト分析の自動化
日次で各AWSアカウントのコスト異常を検知し、異常発生時にはStrands Agentsが自律的に原因調査を行い、要因および対策をTeamsに通知する仕組みを構築しました。
従来、コスト異常発生時には担当者が10〜30分かけて個別に調査を行っていましたが、本仕組みにより、通知内容を確認するだけで原因と対策を把握できるようになりました。これにより、運用コストの削減と迅速な初動対応を実現しています。
<コスト異常検知から対策通知までの分析フロー>
3-5. 社内における全体的な効果
これらの取り組みにより、構築した仕組みは単なる実証(PoC)に留まらず、日々の運用業務の中で活用される仕組みとして定着しています。
障害対応や環境調査、問い合わせ対応などの運用プロセスにAIエージェントを組み込むことで、調査や分析にかかる時間を短縮するとともに、運用担当者間での情報共有やナレッジ活用も促進されています。
また、従来は一部の有識者に依存していた調査・分析業務についても、AIによる支援を通じて対応品質の標準化が進みつつあります。その結果、初動対応の迅速化や情報連携の効率化に加え、社内全体での運用品質向上につながっています。
4. AIエージェント導入を成功させるためのポイント
AIエージェントは導入するだけで効果を発揮するものではありません。TISIでも導入にあたり、データ整備やプロンプト設計、実運用を通じたチューニングなど、さまざまな工夫を行いました。
4-1. 分散したデータの整理と統合
Strands Agents自体は汎用的に設計していますが、分析精度を高めるためには適切なデータを入力できる環境が不可欠でした。
当初、必要な情報はTeams、Amazon S3、データベースなど複数の場所に分散しており、そのままでは効率的な分析ができない状態でした。そのため、データの収集・整形・統合を行い、AIが利用しやすい形式へ標準化する仕組みを構築しました。
最終的には、ソリューション単位で対象アカウント情報を集約し、必要なデータを統合したうえで分析結果をTeamsへ通知する構成を実現しています。
4-2. プロンプト設計
AIエージェントの性能を最大限に引き出すためには、プロンプト設計も重要なポイントとなります。
TISIでは、エージェントの役割や判断基準を定義するシステムプロンプトに加え、対象システムの概要や仕様情報を入力データとして整理しています。
これにより、AIが必要な情報を踏まえながら状況を判断し、適切な調査や分析を行えるよう設計しています。
4-3. 実運用を通じた継続的なチューニング
AIエージェントは一度構築して終わりではなく、実際の利用状況に応じた改善が重要です。
依頼対応の自動化機能については、本格運用前に約1か月間の試用期間を設け、利用者からのフィードバックをもとにプロンプトの改善を行いました。
例えば、社内ルール上は問題のない依頼であっても、AIが過度に保守的な判断を行うケースがありました。また、テンプレートコードの修正では、依頼範囲を超えた変更が行われるケースも確認されました。
こうした課題に対してプロンプトの見直しを継続的に実施することで、判断精度や出力品質の向上を図っています。
5. AIエージェント活用を支える技術的工夫
5-1. 複数AWSアカウントを横断した分析基盤
一般的なAIエージェントは単一のAWSアカウントを対象とした分析を前提としています。しかし実際のシステムは複数アカウントにまたがって構築されることが多く、システム全体の状況を把握するためには横断的な分析が必要です。
そこでTISIでは、各AWSアカウントでStrands Agentsが分析を実施し、その結果を集約したうえで、さらにAIが統合分析を行う仕組みを構築しました。
これにより、複数アカウントにまたがるシステム全体の状態を包括的に把握できるようになっています。
5-2. 安全な運用を実現する権限制御
AIエージェントを運用業務へ適用するうえでは、セキュリティへの配慮も重要です。
TISIでは、Strands Agentsが参照できる情報や実行可能な操作を厳格に制御しています。環境設定の変更や削除といった操作権限は付与せず、調査に必要な参照権限のみに限定しています。
また、個人情報や認証情報など機密性の高いデータについてもアクセス範囲を制限し、安全な運用環境を実現しています。
5-3. Teamsを起点とした運用導線の構築
AIエージェントを日常業務へ定着させるため、Teamsを起点とした運用フローを構築しています。
TeamsとAWS環境の連携にはPower Automateを活用し、Teamsからの問い合わせを自動的にAWS環境へ連携し、その結果を再びTeamsへ返却する仕組みを実現しました。
運用担当者は普段利用しているTeamsから問い合わせるだけでAIエージェントを活用できるため、新たなツールを学習することなく業務へ取り入れることができます。
<Teamsを起点とした運用連携フロー>
6. 未来展望とさらなる活用シナリオ
6-1. 今後の取り組み
今後は、障害分析のさらなる高度化やオブザーバビリティツールとの連携強化を進めることでAIエージェントが活用できる情報の幅を広げ、より高度な障害分析・調査の実現を目指しています。
また、将来的にはAIによるシステム環境への設定変更にも取り組んでいきたいと考えています。ただし、環境変更はシステムへの影響が大きいため、AIにすべての判断・実行を任せるのではなく、人間が最終的に確認・承認を行うことを前提とした「Human in the Loop」の考え方にもとづいた運用を想定しています。
現在はセキュリティの観点からAIエージェントの権限を参照のみに限定していますが、安全性を十分に担保しながら、より高度な運用支援へと適用範囲を広げていく予定です。
さらに、現在のクラウド環境中心の取り組みを発展させ、将来的にはオンプレミス環境を含むハイブリッド環境への適用も視野に入れています。
6-2. システムライフサイクル全体への展開
中長期的には、運用領域にとどまらず、システムの企画・設計から開発、保守・運用に至るまで、システムライフサイクル全体へのAI活用を拡大していきたいと考えています。
また、運用の中で蓄積されたAIの実行ログや利用者からのフィードバックを継続的に活用し、AIエージェントの精度向上につなげていく予定です。
こうした知見を新規システム開発にも還元することで、開発から運用まで一貫した品質向上のサイクルを構築し、お客様により安心してサービスをご利用いただける環境づくりを支援していきます。
6-3. AIエージェントの活用を検討している方へ
AIエージェントをシステム運用の高度化に活用するにあたっては、まず計画に時間をかけすぎず、小さなユースケースから「実際に動かしてみること」が重要です。
現在は関連するツールや情報が充実しており、AIエージェントの導入自体は以前と比べて身近な選択肢になりました。
一方で、実運用に適用する段階では、設計書や構成情報、保守運用データ、過去の障害情報など、多様なデータを適切に活用することが求められます。
ただし、これらのデータを一度にすべてAIへ投入すれば精度が向上するというわけではありません。重要なのは、ユースケースを明確にしたうえで、本当に必要なデータを見極めながら段階的に活用範囲を広げていくことです。このようにAIが生み出す価値を継続的に高めるサイクルを回すことが、導入するうえで重要だと考えています。
TISIでは、本記事で紹介したAIエージェント活用を含め、システムの構築から運用までを一貫して支援する「デジタル基盤オファリングサービス」を提供しています。
- 障害発生時の状況把握・初動対応に時間がかかっている
- 社内外からの依頼・問い合わせ対応で運用工数がひっ迫している
- 有識者への依存(属人化)により対応品質にばらつきがある
- 24時間365日の運用やマルチアカウント管理の負荷が増大している
このようなシステム運用の高度化・効率化に関する課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
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