MARKETING CANVAS LAB(ラボ)

未来を考える情報発信・コラム

AI時代のCX再設計|全7回シリーズ

第1回 その問い合わせ対応は「顧客理解」につながっているか?

AI時代に再定義するコンタクトセンターとCRMの役割

CX再設計
顧客の声を、顧客理解へ。

顧客からの問い合わせは、企業にとって負荷であると同時に、顧客理解を深める重要な機会でもあります。電話、メール、チャットなどのコンタクトセンターに集まる声には、購買前の不安、購入後の不満、サービスへの期待が凝縮されています。
しかし、その情報がコンタクトセンター内だけで閉じてしまえば、企業全体の顧客理解にはつながりません。顧客は別の接点で同じ説明を求められ、企業は貴重な顧客の声を活かしきれないままになります。
AIが顧客の意図を読み取り、最適な提案や行動を支援する時代には、問い合わせ対応で得られる情報を、CRM、EC、店舗、マーケティング施策とつなぎ、顧客文脈として活用できる構造が求められます。
コンタクトセンターは、問い合わせを処理する場所から、顧客理解を蓄積し、CXを更新する起点へと変わりつつあります。本記事では、その変化をCTI、CRM、ユニファイドコマース2.0、エージェンティックコマースの視点から読み解きます。

※本コラムは、2023年下期に配信したステップメール連載をベースに、AI時代のCX・ユニファイドコマース・エージェンティックコマースの観点から再編集したリライト版です。

1. なぜ問い合わせ対応は、社内で活かされにくいのか

企業にとって、コンタクトセンターは長く「問い合わせを処理する場所」として捉えられてきました。電話、メール、チャットなどを通じて顧客から寄せられる相談やクレームに対応し、できるだけ早く解決することが主な役割とされてきたのです。

もちろん、応対品質や処理効率は今も重要です。顧客を待たせないこと、正確に回答すること、担当者による応対品質のばらつきを抑えることは、コンタクトセンター運営における基本です。

しかし、問い合わせ対応の価値は、その場で完結するものではありません。顧客が何に困り、何を不安に感じ、どのような期待を持っているのか。こうした情報は、商品開発、EC改善、店舗接客、マーケティング施策、FAQ改善など、企業全体の改善に活かせる可能性を持っています。

それにもかかわらず、多くの企業では、問い合わせ対応で得られた情報がコンタクトセンター内に閉じてしまいがちです。オペレーターは丁寧に対応しているにもかかわらず、その内容が店舗、EC、マーケティング、商品企画、営業活動に十分共有されない。結果として、顧客は別の接点でまた同じ説明を求められることになります。

この「何度も説明させられる体験」は、顧客にとって大きなストレスです。そして企業にとっては、顧客理解の機会を失っている状態でもあります。

問い合わせ対応を顧客理解の起点に変えるには、コンタクトセンターを個別対応の場としてだけでなく、顧客文脈を蓄積し、企業全体へ還流させる接点として再定義する必要があります。

問い合わせ対応は、なぜ顧客理解につながりにくいのか

【図版1】 問い合わせ対応は、なぜ顧客理解につながりにくいのか


2. CTIだけでは「自分を分かってくれている」体験はつくれない

コンタクトセンターの応対品質を高めるために、CTIは有効な仕組みです。CTIとは、Computer Telephony Integrationの略で、電話とコンピュータを連携させるシステムを指します。発信者番号をもとに、オペレーターの画面に顧客情報を表示することで、応対の効率化や品質向上に役立ちます。

たとえば、顧客の氏名、住所、会員番号、過去の問い合わせ履歴が画面に表示されれば、オペレーターは基本情報を確認しながら会話を始めることができます。顧客にとっても、最初からすべてを説明し直す負担が軽減されます。

しかし、CTIを導入しただけで、理想的な顧客体験が実現するわけではありません。

画面に表示される情報が、氏名や住所などの基本情報に限られていれば、顧客の本当の状況は理解できません。顧客がどの商品を購入したのか、どの店舗を利用しているのか、ECで何を閲覧したのか、過去にどのような不満を持ったのか。こうした情報が見えなければ、オペレーターは結局、顧客に同じ説明を求めることになります。

顧客が期待しているのは、単に名前を呼ばれることではありません。

「自分の状況を分かったうえで対応してくれている」という感覚です。

この感覚をつくるには、電話応対の画面に表示される情報だけでなく、企業側が顧客をどの単位で理解しているかが問われます。問い合わせ履歴、購買履歴、Web上の行動、店舗での接点、マーケティング施策への反応が分断されたままでは、顧客は接点を移動するたびに、企業に対して自分を説明し直さなければなりません。

つまりCTIは、顧客理解の入口にはなりますが、単独では十分ではありません。CTIをCRMやこれらのデータと連携させ、顧客文脈を共有できる構造をつくることが重要になります。


3. CRMは顧客データベースではなく、関係性を設計する仕組みである

ここで重要になるのがCRMです。CRMはCustomer Relationship Managementの略で、日本語では顧客関係管理と訳されます。

CRMというと、顧客情報を一元管理するデータベースやシステムを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし本来のCRMは、単なるデータベースではありません。顧客とどのような関係を築き、どのように継続的な価値を提供していくかを設計する考え方そのものです。

たとえば、ある顧客がECで商品を購入し、その後コンタクトセンターに問い合わせを行い、さらに店舗で別の商品を購入したとします。この一連の行動が、それぞれ別のシステムに分断されていると、企業はその顧客を一人の顧客として理解できません。

EC部門から見れば購入者、コンタクトセンターから見れば問い合わせ者、店舗から見れば来店客。それぞれの接点では顧客を捉えていても、企業全体としては顧客の文脈を理解できていない状態です。

AI時代に求められるCRMは、こうした分断を超えるものです。顧客情報を集めるだけでなく、顧客の意図、状況、行動履歴、問い合わせ内容をつなぎ、次の体験設計に活かすことが求められます。

つまりCRMは、顧客を管理する仕組みではなく、顧客との関係性を更新し続けるための構造です。

特にコンタクトセンターに集まる情報は、CRMにおいて重要な意味を持ちます。なぜ問い合わせたのか。どの説明で納得したのか。何に不満を感じていたのか。再購入や継続利用を妨げている要因は何か。こうした情報を顧客単位で蓄積し、他の接点とつなげることで、CRMは単なる顧客台帳ではなく、顧客理解を深める基盤になります。


4. AI時代に重要性を増すVOCとコンタクトセンター

生成AIの進化により、問い合わせ対応そのものも大きく変わり始めています。FAQの自動生成、チャットボットによる一次対応、通話内容の要約、応対履歴の自動登録、顧客感情の分析など、AIが担える領域は広がっています。

ただし、ここで重要なのは、AIによって人の応対を置き換えることだけではありません。むしろ本質は、問い合わせ対応を通じて得られるVOC、つまり顧客の声を、企業全体の知識資産に変えられるかどうかです。

たとえば、ある商品の使い方に関する問い合わせが増えている場合、それは単なる問い合わせ件数の増加ではなく、商品説明やECの商品ページ、店舗での案内、購入後メールに改善余地があるサインかもしれません。

また、解約や返品に関する問い合わせが特定の商品や顧客層に集中している場合、それは商品企画や販売方法、レコメンド設計に問題がある可能性を示しています。

AIは、こうした問い合わせ内容を大量に整理し、傾向を見つけることに適しています。通話内容を要約する。問い合わせ理由を分類する。不満の兆候を検出する。FAQに不足している情報を発見する。こうした活用は、コンタクトセンターの運営効率だけでなく、商品説明、FAQ、接客、購入後コミュニケーションの改善にもつながります。

つまりAI時代のコンタクトセンターは、応対を効率化するだけの場所ではありません。顧客の声を構造化し、次の改善のヒントを見つける場所へと変わっていくのです。


5. ユニファイドコマース2.0における顧客文脈の共有

これまでユニファイドコマースは、店舗、EC、アプリ、コンタクトセンターなど、複数の顧客接点を統合し、一貫した顧客体験を実現する考え方として語られてきました。

その中心にあったのは、接点の統合です。店舗で購入した商品をECで確認できる。ECで注文した商品を店舗で受け取れる。どの接点でも同じ会員情報や購買履歴を参照できる。こうした構造は、これまでのユニファイドコマースにおける重要な論点でした。

便宜的にこの段階をユニファイドコマース1.0と呼ぶなら、それは「接点をつなぐ」段階だったと言えます。

しかし現在は、生成AIの進化によって、さらに一歩進んだ構造が求められています。それが、AIが顧客文脈をリアルタイムに同期し、境界のない顧客体験を実現するユニファイドコマース2.0です。

顧客が何を買ったかだけでなく、なぜ問い合わせたのか、どこで迷ったのか、どのような体験に不満を持ったのか、次に何を求めているのか。こうした文脈を、企業全体で共有できるかどうかが、AI時代のCXを左右します。

この視点で見ると、コンタクトセンターはユニファイドコマース2.0の重要な構成要素です。なぜなら、そこには購買データだけでは見えない顧客の言葉が集まるからです。

コンタクトセンターに集まる問い合わせ内容や応対履歴は、CRMの中だけで完結させるものではありません。購買履歴、ECやアプリ上の行動データ、店舗での接客履歴、マーケティング施策への反応と組み合わせることで、企業は顧客をより立体的に理解できるようになります。

そのためには、CTIやCRMの整備に加えて、コンタクトセンターに集まるデータを他の顧客接点データと連携し、分析、施策、改善へ活かすためのデータ統合と利活用の設計が欠かせません。

ユニファイドコマース1.0から2.0、そしてエージェンティックコマースへ

【図版2】 ユニファイドコマース1.0から2.0、そしてエージェンティックコマースへ


6. エージェンティックコマース時代に向けて、企業が整えるべき構造

エージェンティックコマースの時代には、顧客自身がすべてを検索し、比較し、判断するとは限りません。顧客が使うAIエージェントが、条件や好みを踏まえ、最適な商品やサービスを探し、提案し、場合によっては購入行動の一部を支援するようになります。

そのとき企業に求められるのは、顧客が使うAIエージェントから理解され、推薦されるための構造です。

ここでいう構造とは、単に商品情報を整備することだけではありません。顧客理解、問い合わせ履歴、購買履歴、在庫情報、キャンペーン情報、店舗情報、サービス対応履歴などが、AIにとって理解しやすい形で接続されている状態を指します。

これは、従来のSEOとは異なる新しい論点です。SEOが人間に検索されることを重視してきたのに対し、AX、つまりAIエージェント体験では、AIに理解され、適切に推薦されることが重要になります。

コンタクトセンターの情報も例外ではありません。顧客がどのような不満を持ち、どのようなサポートを受け、どのような対応に満足したのか。その情報は、今後のレコメンド、フォロー施策、商品改善、CX設計に活かされるべきものです。

エージェンティックコマース時代において、問い合わせ対応は単なるサポート履歴ではなく、AIが顧客を理解するための重要な文脈情報になります。だからこそ、必要なのは個別のツール導入ではなく、顧客文脈を中心に接点とデータをつなぎ直す設計です。コンタクトセンターを顧客理解の起点として位置づけることは、その第一歩になります。


7. まとめ

コンタクトセンターは、これまで問い合わせ対応の効率化や応対品質の向上を目的に整備されてきました。CTIの導入やCRMとの連携は、そのための重要な手段でした。

しかしAI時代においては、それだけでは十分ではありません。

顧客からの問い合わせを、単なる対応履歴として終わらせるのか。それとも、企業全体の顧客理解に変えていくのか。この違いが、これからのCXに大きな差を生みます。

ユニファイドコマースが接点統合から顧客文脈の同期へ進化し、さらにエージェンティックコマースへ向かう中で、コンタクトセンターは重要な入口になります。

顧客の声を、顧客理解へ。
顧客理解を、CX設計へ。
CX設計を、AIに選ばれる構造へ。

その流れをつくることが、これからのコンタクトセンターとCRMに求められる役割です。


用語集

CTI
電話とコンピュータを連携させ、発信者番号や顧客情報を応対画面に表示する仕組み。応対効率を高めるだけでなく、顧客の声をCRMや他接点へ接続する入口として捉えることで、コンタクトセンターを顧客理解の起点に変えられる。

CRM
顧客情報を管理するだけでなく、顧客との関係性を継続的に設計するための考え方。問い合わせ履歴や購買履歴をつなぎ、次の体験へ活かすことで、部門ごとの対応を企業全体の顧客理解へ変えていく役割を担う。

VOC
Voice of Customerの略。問い合わせ、要望、レビュー、クレームなどに表れる顧客の声。単なる対応履歴として閉じず、商品改善、接客、EC、マーケティング施策へ還流させることで、企業全体の知識資産になる。

顧客文脈
購買履歴、問い合わせ内容、行動履歴、不満、期待などを含む、顧客を理解するための背景情報。単なる属性データではなく、顧客が何に迷い、何を期待し、次に何を必要としているかを捉えるための流れを指す。

AX
AIエージェント体験のこと。顧客が使うAIに企業や商品が正しく理解され、適切に推薦されるための体験設計を指す。コンテンツだけでなく、商品情報、顧客文脈、在庫、サポートまで含めて、AIに誤解されにくい構造を整えることが重要になる。


FAQ

Q1. CTIを導入すれば、顧客対応は改善しますか?

CTIは、電話応対の効率化や応対品質の平準化に役立つ重要な仕組みです。ただし、CTIだけで顧客理解が深まるわけではありません。購買履歴、問い合わせ履歴、店舗やECでの行動が分断されたままでは、顧客は接点を移動するたびに同じ説明を求められます。CTIは入口であり、顧客文脈をCRMや他の接点へつなぐ設計があって初めて、CX改善につながります。

Q2. コンタクトセンターのデータは、なぜCX改善に活かされにくいのですか?

問い合わせ内容は顧客の不安や不満が表れる貴重な情報ですが、部門内の対応履歴として閉じてしまうと、商品改善、EC改善、店舗接客、マーケティング施策に活かされにくくなります。重要なのは、問い合わせを処理結果として記録するだけでなく、顧客文脈として整理し、企業全体で共有できる状態にすることです。

Q3. VOCをAI時代の顧客理解に活かすには何が必要ですか?

VOCをAI時代の顧客理解に活かすには、顧客の声を単なるテキストや分類コードとして扱うのではなく、どの顧客が、どの接点で、どのような状態で発した声なのかを捉える必要があります。AIが判断しやすい形で構造化し、CRMや購買データ、行動データと接続することで、VOCは改善の材料から企業全体の知識資産へ変わります。

Q4. 問い合わせ対応とエージェンティックコマースはどう関係しますか?

エージェンティックコマースでは、AIが顧客に代わって商品やサービスを探し、比較し、提案する場面が増えていきます。そのとき、問い合わせ履歴やサポート内容は、顧客の不安や期待を示す重要な文脈情報になります。顧客の声を企業全体で活用できる状態にしておくことは、AIに理解されるコマース構造を整える第一歩になります。

Q5. 最初に見直すべきことは何ですか?

最初に見直すべきなのは、ツールの追加ではなく、問い合わせで得られた情報がどこで止まっているかです。コンタクトセンター、CRM、EC、店舗、マーケティング施策の間で、顧客単位の情報が引き継がれているかを確認することが、顧客理解を企業全体へ広げる出発点になります。


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