MARKETING CANVAS LAB(ラボ)

未来を考える情報発信・コラム

AI時代のCX再設計|全7回シリーズ

第7回 顧客理解を「実行できる企業」へ

OMS・在庫管理が、AI時代の競争力を左右する

CX再設計
顧客理解を、企業全体で同期できているか。

どれだけ顧客を理解していても、実際の購買体験に反映できなければ意味はありません。欲しい商品が届かない。店舗とECで在庫が連動していない。配送や受け取り方法が最適化されていない。顧客文脈を理解していても、最後の実行が同期されていない企業は少なくありません。
最終回では、OMSや在庫管理を単なる業務システムではなく、顧客体験と経営判断をつなぐコマース基盤として捉え直します。

※本コラムは、2023年下期に配信したステップメール連載をベースに、AI時代のCX・ユニファイドコマース・エージェンティックコマースの観点から再編集したリライト版です。

1. 顧客理解だけでは、顧客体験は変わらない

多くの企業が、顧客データ活用に取り組んでいます。

CRMを導入し、顧客を分析し、1to1マーケティング施策を実行する。

ここ数年で、顧客理解そのものは大きく進化しました。

一方で、実際の購買体験には、まだ多くの分断が残っています。

アパレル業界では、ECで「在庫あり」と表示されていた商品が、決済直前に売り切れる場面があります。店舗在庫を引き当てる仕組みがあっても、引当タイミングのズレで二重販売が発生する。こうした構造が見られることもあります。

化粧品業界では、定期購入の出荷タイミングと在庫補充のズレが、解約理由につながるケースも見られます。

百貨店では、外商顧客が指定した受け取り日に、店舗側の引当処理が間に合わないという声もあります。

顧客から見れば、それは「部門連携の問題」ではありません。

企業として、一貫した体験を提供できていない状態です。

どれだけ顧客理解が進んでも、最後の「実行」が同期されていなければ、顧客体験は分断されたままになります。


2. OMSは「裏側の仕組み」から「経営基盤」へ変わる

こうした分断をつなぐ役割を担うのが、OMS(Order Management System)です。

OMSは、単なる受注管理システムではありません。

受注、在庫、配送、店舗、物流を横断し、「どの商品を、どこから、どう届けるか」を最適化するための基盤です。

これまでOMSや在庫管理は、業務効率化のための仕組みとして語られることが多くありました。

しかし現在は、その位置づけ自体が変わり始めています。

どの拠点から配送するのか。

店舗在庫をEC販売に使うのか。

受け取り方法をどう最適化するのか。

これらは単なるオペレーションの選択ではありません。

どの拠点から配送するかは、配送コストと顧客満足のトレードオフです。

店舗在庫をECへ回すかは、来店動機と販売機会のバランスです。

受注処理の一つひとつが、収益性と顧客体験の両方に直結する経営判断になりつつあります。

配送コスト上昇や人手不足が続く中、企業には「在庫を持つこと」だけでなく、「限られた在庫を、どこで、誰に、どう届けるか」をリアルタイムに判断する力が求められています。

特にユニファイドコマースでは、「在庫を持つこと」より、「在庫情報をどう同期するか」が重要になります。

在庫があることではなく、顧客に対して最適な形で提供できること。

そこに価値が移っています。

OMSは今、受注処理の仕組みから、顧客体験を成立させるコマース基盤へ進化しています。

さらにAI時代には、一度構築した仕組みを固定的に運用するだけでは対応できません。

新たな顧客接点。

新しい購買行動。

AIエージェントとの連携。

配送や受け取り方法の変化。

コマース基盤そのものが、変化し続けることを前提に設計される必要があります。

OMSに問われているのは、「業務処理」ではなく、「変化への適応速度」そのものです。

部分最適から「リアルタイム同期型コマース」への変化

【図版2】 部分最適から「リアルタイム同期型コマース」への変化


3. AI時代に、AIが見ているのは「実行できる状態」

エージェンティックコマースでは、AIが顧客に代わって商品を探し、比較し、提案する場面が増えていきます。

検索より先に、提案が始まる時代です。

そのときAIが見ているのは、商品情報だけではありません。

在庫はあるか。

いつ届くか。

どこで受け取れるか。

返品しやすいか。

つまりAIは、「買える状態」の総体を見ています。

どれだけ高度な分析をしていても、在庫や配送、受注、店舗連携が分断されていれば、最終的な顧客体験は成立しません。

AI時代に選ばれるのは、「分析できる企業」ではありません。

顧客理解を、リアルタイムに同期し、実行できる企業です。


4. コマースは「同期する企業構造」へ変わる

これまで、多くの企業では部門ごとに最適化が進められてきました。

ECはEC。

店舗は店舗。

物流は物流。

CRMはCRM。

しかし顧客は、それらを分けて認識していません。

顧客が見ているのは、「企業として体験がつながっているか」です。

だからこそ今、必要なのは個別システムの導入ではありません。

顧客接点、データ、施策、在庫、物流、店舗運営までを含めて、企業全体をリアルタイムに同期させる視点です。

AI時代のコマース基盤とは、単なるEC基盤ではありません。

企業全体の意思決定と顧客体験を同期する経営基盤です。

終章.AI時代のコマースは、その問いから始まる

7回にわたり、顧客接点・CRM・データ・分析・施策実行・店舗とEC、そしてコマース基盤を見てきました。

結局のところ、このシリーズを通して問われていたのは、たった一つのことだったのかもしれません。

その企業は、顧客を、企業全体で同じように理解できているか。

この問いに、組織としてどう答えるか。AI時代のコマース設計は、そこから始まります。

AI時代のコマース基盤 ― 顧客文脈を中心に、実行が同期する構造

【図版3】 AI時代のコマース基盤 ― 顧客文脈を中心に、実行が同期する構造


用語集

OMS
Order Management Systemの略。受注、在庫、配送、店舗、物流を横断し、どの商品を、どこから、どう届けるかを管理・最適化する仕組み。AI時代には、顧客理解を実際の購買体験へ変えるための実行基盤として位置づけられる。

在庫管理
在庫数を把握するだけでなく、販売機会、配送コスト、顧客満足を踏まえて、どこにある在庫をどう提供するかを判断する取り組み。顧客体験と収益性を同時に左右するため、経営判断に近いテーマになりつつある。

リアルタイム同期
顧客接点、在庫、受注、配送、施策などの情報を遅れなくつなぎ、判断と実行へ反映できる状態。単なる高速連携ではなく、顧客文脈を中心に企業全体が同じ前提で動けることが重要になる。

コマース基盤
ECサイトだけでなく、受注、在庫、物流、店舗、CRM、データ活用までを含め、購買体験を支える基盤全体。AI時代には、売る仕組みと届ける仕組みを分けず、顧客理解を実行へ変える経営基盤として捉える必要がある。

エージェンティックコマース
AIが顧客の代理として商品発見、比較、提案、購買支援などに関与する新しい商取引の形。企業にとっては、商品情報だけでなく、在庫、配送、返品、サポートまで含めて、AIに理解され、実行可能な状態を整えることが重要になる。


FAQ

Q1. OMSは、なぜAI時代のコマース基盤になるのですか?

OMSは受注管理だけでなく、在庫、配送、店舗、物流を横断し、顧客にどのように商品を届けるかを判断する基盤です。AIが購買判断に関与する時代には、商品情報だけでなく、買えるか、いつ届くか、どこで受け取れるかまで含めた実行可能性が重要になります。

Q2. 在庫管理は、なぜCXや経営判断に直結するのですか?

在庫管理は、欠品防止や業務効率化だけの問題ではありません。どの在庫を誰に、どのチャネルで、どのタイミングで提供するかは、顧客満足、販売機会、配送コスト、利益率に直結します。AI時代には、在庫判断そのものが顧客体験と経営判断をつなぐテーマになります。

Q3. 顧客理解を「実行できる企業」とは何ですか?

顧客を理解しているだけでは、顧客体験は変わりません。顧客理解を、施策、在庫、配送、店舗運用、サポートまで反映できる企業が、顧客理解を実行できる企業です。シリーズ全体で見てきた接点、データ、分析、施策を、最後の購買体験まで同期できるかが問われます。

Q4. エージェンティックコマース時代に、企業が整えるべきことは何ですか?

エージェンティックコマースでは、AIが顧客に代わって商品やサービスを比較・提案する場面が増えます。そのため企業は、商品情報だけでなく、在庫、配送、返品、サポート、接客履歴まで含めて、AIが理解しやすく、実行可能な構造を整える必要があります。

Q5. 最終的に、企業は何を問い直すべきですか?

問い直すべきなのは、顧客を企業全体で同じように理解できているか、そしてその理解を実行へ移せているかです。部門ごとの最適化ではなく、顧客文脈を中心に接点、データ、施策、在庫、物流を同期できるかが、AI時代のコマースにおける経営課題になります。


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