財務担当役員メッセージ

財務方針/資本政策の基本的な方針

「持続的な企業価値の向上に向けて、中長期の経営視点から、成長投資の推進・財務健全性の確保・株主還元の強化のバランスのもと、資本構成の適正化を推進」

  1. 持続的な事業利益の成長・収益性向上によるキャッシュ創出力の強化を図るため、積極的に成長投資を推進し、この一環として事業ポートフォリオの見直しも継続的に検討・実施
  2. バランスシートマネジメントの強化等を通じて当社グループの構造転換の進化に応じた資本構成の適正化を推進することにより、財務健全性を確保した上で資本コストを上回るリターンを持続的に創出
  3. 株主還元については事業成長に応じた充実化を図る

Q1.中期経営計画は2年目を終えました。発表当初は目標達成のハードルが高いとの見方もありましたが、現時点ではどのような進捗でしょうか。

 中期経営計画を発表した当初は、当社としてもチャレンジングであると認識していましたし、市場の皆様から見ても相応に高いハードルとして受け止められていました。業績計画の達成に向けては、業績が線形に積み上がるというよりも、最終年度に向けて一定のジャンプアップが必要になることも想定していました。そのような中で、当社は1年目、2年目と着実な事業成長を実現してきたこともあり市場のコンセンサスも段階的に引き上がってきました。また詳細は後述しますが、財務施策についても積極推進し、重要経営指標であるROEやEPS目標についても2027年3月期のガイダンスとして示すことで目標を達成する姿勢を具体化できる段階に至り、着実に進捗していると評価しています。
 一方で、2026年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益については、減損損失や係争案件に係る引当金の計上等により、計画および前期の実績を下回る結果となり、経営上の重要課題の一つとして真摯に受け止めています。しかしながら、株主の皆様への還元については、当社の株主還元方針の通り総還元性向は営業活動から得られた利益(法人税等・非支配株主利益控除後)をもとに算出していることから、事業成長に伴う増配を実現することができました。その結果、14期連続の増配に加え、当初配当計画からの増配も達成できました。以上を踏まえると、課題は残るものの、事業成長の継続により着実に前進した1年であったと認識しています。

Q2. AI disruptionへの懸念により、ITサービスセクター全体への見方は厳しくなりました。中期経営計画は順調に進捗している一方で、このような市場環境をどのように捉えていますか。

 中期経営計画は着実に進捗しており、収益性および資本効率性の改善という観点では、企業価値の基盤は強化されています。一方で、2026年初以降、AIの進展を背景に、SIerのビジネスモデルに対する見方が変化しました。SIerの提供価値が中長期的に代替されてしまうのではないか、また短期的にも業績が落ち込むのではないかといった不透明感が強まり、当社を含むセクター全体に対する見方が慎重化した局面であったと考えています。その結果、当社の企業価値評価には市場との一定のギャップが生じていると捉えています。これは、足元の業績そのものに対する評価というよりも、今後の中長期的な成長に対する見方の違いに起因するものと捉えています。すなわち、当社がこれまで前提としてきた中長期的な成長を織り込んだ本源的な企業価値と、市場が想定する成長性との間に差が生じている状況です。特に、AIの進展を踏まえ、当社がどのような価値を提供し続けることができるのか、成長を維持・加速できるのかという点について、まだ十分に評価いただけていないことも一因だと認識しています。
 2026年3月期は、中長期の成長に向けた取り組みについての発信と対話に注力しました。2025年7月にTISとインテックの合併を決定・発表し、2025年10月には想定売上高シナジーとして600億円超を創出していくなど、中核会社TISIのありたい姿を具体化しました。また、2026年3月には機動的な自己株式の取得を決定し、財務戦略の面からも企業価値向上に向けた姿勢を示しました。企業価値は事業戦略と財務戦略の両輪で高めていく必要があり、成長戦略の発信に加え、資本効率を意識した財務施策についても一体的に取り組んできました。その上で、2026年5月には、AIによる産業構造の変化を大きな成長機会と捉えて、当社グループのありたい姿として2033年3月期に連結売上高1兆円規模・営業利益1,500億円超への成長をお示ししました。2027年5月に控える次期中期経営計画の発表に先立ち、その方向性を前倒しで提示したものです。これは現中期経営計画の目標達成に向けた道筋を示すことにとどまらず、その先の成長に向けた方向性についても、資本市場との対話を始める段階に入っているということです。

Q3.成長戦略や財務施策を推進しても、なお企業価値の評価とのギャップは残っているように見えます。あらためて、これまでの取り組みは十分だったのでしょうか。

 当社は、PBRを起点とした企業価値の向上を重視し、資本効率性はROEとPERに、そしてPERは資本コスト、成長期待のそれぞれに分解して認識しています。事業成長と財務施策の両面から資本効率性の維持・向上を図っており、この点は一定の基盤が整ってきたと考えています。その一方で、現在の課題は主にPER、すなわち成長期待の醸成にあると認識しています。
 PERを構成する要素のうち、資本コストの低減については、バランスシートマネジメントの観点から、政策保有株式の縮減、キャッシュポジションにも目配りをしながら自己株式の取得を推進し、自己資本比率の過度な上昇の抑制を行い、財務健全性を前提とした資本構成の適正化を推進してきました。なお、2026年3月期末の政策保有株式の貸借対照表計上額は202億円、連結純資産に対する比率は6.0%となり、引き続き目標としている10%水準を下回っています。
 一方で、期待成長率が高まらず、依然としてPERの水準には課題が残っています。これは市場評価と当社の認識とのギャップがあり、より率直に言えば明確なディスカウントを受けていると感じています。まずは前述した、ITサービスセクター全体に対するAI disruption懸念です。次に、当社グループに対する評価として、AIを自らの成長戦略に取り込み顧客提供価値を高めていく会社としての見方が十分に形成されていない側面があります。例えば、どの領域にどの程度AIが浸透しているのか、こうした進捗や効果をどういったKPIで測っているのか等の定量的な情報発信が不足していることも一因です。また、グループポートフォリオに不可欠な領域としてアウトソーシングや顧客拠点でのオンサイト業務を備えていますが、AIによる負の影響を受けるとの市場の見方も一定数あり、これらの領域がAIの浸透等を踏まえてどのように変容しどのような役割を担っていくのかについて示しきれていないことも、グループポートフォリオが多様な故、かえってディスカウントにつながっていると認識しています。実際の対話の中でも、この点に関する事業理解にはギャップがあると感じており、強みの訴求にとどまらず、事業構造や位置付け、提供価値そのものについての理解を深めていただく必要があります。これらに加えて事業の稼ぐ力に対する評価が高まらないことも要因になっています。中期経営計画に沿って着実に業績進捗しているものの、近年の売上高成長率や売上総利益率の改善が緩やかであるためです。しかし前述したように中長期成長に向けた取り組みの手を緩めることなく進めていますし、収益性についても短期利益を追求することなく、人材投資をはじめとする将来に向けた投資を積極化する経営を徹底しています。特にAI時代に競争優位の源泉となる人材の拡充を戦略的投資と位置付け、ビジネス変革を構想し、技術と業務知見を統合して成果へとつなげる、人ならではの価値創出にこだわっています。こうした取り組みが人的資本に持続的な厚みをもたらせ、企業価値を向上させていくと考えています。
 ビジネスモデル、事業構造や提供価値に対する理解不足と稼ぐ力への評価の低さは、いずれも当社自身が解消すべき内的要因の強いディスカウント要素です。TISIの合併シナジーやグループ全体でのありたい姿で描いたトップライン成長等の戦略解像度を高め、そしてそれを実績で示し、対話を重ね、こうした取り組みを一層強化することで早期解消を目指します。

Q4.資本政策を積極的に実施されている中でも、2026年3月期の自己株式の取得については過去最大規模となっています。この決定の背景と狙いを教えてください。

 当社は、1株当たり価値を継続的に高めていくことを強く意識し、その実現手段として自己株式取得を継続的に活用してきました。また、こうした取り組みは、資本構成の適正化や資本効率の向上といったバランスシートマネジメントの観点とも整合するものです。
 2026年3月期は、経営環境の変化に柔軟に対応する機動的な資本政策のもと、株主利益および資本効率の向上を目的として、過去最大規模の自己株式取得を実施しました。具体的には、2025年5月に、株主還元を目的とした70億円相当および資本構成の適正化を目的とした350億円相当、総額420億円の自己株式取得を決定しました。これに基づき、2025年5月から12月にかけて約420億円の取得を完了し、このうち資本構成適正化を目的とした350億円相当分については、当社の保有方針および将来の希薄化懸念への対応を踏まえ、2026年2月に消却しております。さらに、2026年3月には、総額500億円の自己株式取得を追加施策として決定しました。本施策には、株主還元方針である総還元性向50%に基づく取得予定分も含まれており、従来の決算発表のタイミングにとらわれず、機動的に意思決定を行ったものです。AIの浸透を踏まえた成長戦略により中長期的な企業価値向上が可能であるとの前提のもと、当社が考える本源的価値に照らせば株価水準が必ずしも十分に評価されていないとの認識があり、ROE16%超およびEPS成長率10%超といった中期経営計画の指標達成にも資する施策として、こうした経営姿勢を適時に示す必要があり追加実施を判断しました。

 機動的な意思決定の背景にあったのは、当社自らが株価を強く意識した企業価値向上の実現に真正面から向き合ってきたからであり、市場の声を単なる外部評価として受け取っているだけではありません。2026年初以降、大きく下落した株価については株主・投資家の皆様には大変なご心配をおかけしましたし、実際に厳しいご指摘もいただきました。2025年末には1.2兆円を上回っていた時価総額は7,000億円を下回る局面もあり、皆様の立場に立てば当然のご指摘です。私自身も強い危機感と悔しさを感じ、市場との結節点としての役割を全うすべく、こうした市場の声を取締役会へ共有し優先的に議論を行いました。社外取締役においても、これまで株主・投資家の皆様との対話を直接行ってきたことで市場の期待と当社が取り組むべき課題に対する認識が共有されており、取締役会における議論の前提も揃っていました。その結果、企業価値向上に資する施策について、より迅速かつスムーズな意思決定が可能になったのです。
 当社は、これらの自己株式取得を単なる株主還元ではなく、企業価値向上に資する施策と位置付けています。今後も、バランスシートマネジメントと資本市場との対話の双方を踏まえながら、資本効率の改善と株主価値の向上に資する資本政策を機動的に出動してまいります。

Q5.自己株式取得を含め資本政策を積極化されている一方で、キャッシュアロケーション全体の考え方、特に成長投資とのバランスはどのように整理されていますか。また、M&A・出資が計画に対し乖離している点についてはどのように考えていますか。

 キャッシュアロケーションの基本的な考え方は、企業価値の向上に資するものに対して適時・適正に配分することです。財務方針・資本政策の基本的な方針で定める、持続的な企業価値の向上に向けた成長投資の推進・財務健全性の確保・株主還元の強化のバランスを常に大切にしながら判断をしています。
 当社グループの属するITサービスセクターは引き続き強いIT投資需要が見込まれる一方で、足元ではAIの進展を背景に、競争環境の急速な変化も見込まれます。こうした環境の中で、当社グループとしては顧客提供価値の高度化と競争力の強化がより重要になっていると認識しています。そのため、TISとインテックの合併を通じて経営資本を集結し、成長加速を図ります。その上で、非連続成長につながるM&A・出資についても、引き続き積極的に検討・推進していく考えに変わりはありません。
 一方で、投資の実行タイミングや規模は案件ごとに大きく異なり、画一的に期間按分して進捗を評価するものではないと考えています。3カ年で700億円の投資枠に対し、これまでの実績は2カ年累計で137億円となっていますが、これをもって進捗が遅れているとは認識していません。投資規律を維持しながら、資本コストを上回るリターンが見込める案件を厳選していくことを優先しています。また、2026年3月期は自己株式取得を積極的に実施したことで、配当および自己株式の取得に関するキャッシュアウトは増加しましたが、これは成長投資の枠を充当したものではなく、バランスシートの状況や市場環境を踏まえた追加的な資本政策として実施したものです。資本政策の実行にあたっては、機を逸することのない機動性も重要であると考えています。キャッシュアロケーションについても、その時点のキャッシュポジションや財務状況を踏まえながら、企業価値向上に資する施策に対して柔軟に最適配分を行っていく考えです。
 今後も、この基本的な考え方に基づき、成長投資・株主還元・財務規律のバランスを取りながら、キャッシュアロケーションの考え方、その実行を実績としてお示ししていきます。

Q6.最後に、株主・投資家の皆様へメッセージをお願いします。

 当社グループはグループ基本理念「OUR PHILOSOPHY」軸での経営を通じて社会価値・経済価値を創造し、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上の実現を目指しています。
 2026年3月期は、市場環境の変化の中で当社に対する見方が変化した1年であったと認識しています。その中で、業績計画の達成、資本政策の機動的な実行、そして中長期成長に向けた発信と対話を通じて、企業価値向上に向けた取り組みを進めてきました。こうした取り組みは事業と財務の両面から施策を一体的に推進し、積極的な成長投資によりキャッシュ創出力を高め、そして株主還元の強化へと善循環させていくという当社の基本的な考え方に基づくものです。今後も、人材をはじめとした成長投資を着実に実行し、その成果を次の成長や株主還元につなげていく、こうした企業価値向上へのキャッシュアロケーションが最重要です。このサイクルの再現性と継続性を高め、かつ加速させるために、TISIの合併を契機としたOne Companyとしての経営体制のもと、より迅速な経営判断を行ってまいります。
 株主・投資家の皆様との対話の中でいただくご指摘やご意見は、経営を見直す上で非常に重要な示唆だと受け止めています。そうした声を踏まえながら、必要な判断と実行はこれまでも行ってきましたし、今後もその姿勢に変わりはありません。
 足元では市場環境の変化もあり、当社の企業価値に対する評価との間にギャップが生じている状況にありますが、過去においては当社の優位性や成長性に対し高い期待を織り込んだ評価をいただいてきた局面もありました。現状はそうした意味で再評価の余地がある段階にあると認識し、ディスカウントを排除した上で、新たな優位性と成長性を創り出すことで当社に対する期待をあらためて取り返していきたいと考えています。
 引き続き、ステークホルダーの皆様との結節点として対話を重ねながら、当社グループの取り組みをお伝えし、ご期待に応えていく所存です。市場から信頼されるとともに、将来への期待を持っていただける企業として評価され、選ばれ続ける存在であることを目指してまいります。

2026年9月
常務執行役員 企画本部長 河村 正和

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更新日時:2026年10月22日 15時38分