コーポレートガバナンス座談会

写真左から順に、内ヶ﨑 茂:HRガバナンス・リーダーズ 代表取締役社長CEO (ファシリテーター)、桑野 徹:取締役会長/取締役会議長、古澤 満宏:社外取締役/指名・報酬委員会委員長、小野 行雄:社外取締役 (監査等委員)

AIの進展によりITサービス業界を取り巻く環境が大きく変化する中、持続的な企業価値向上の実現を確かなものとするために監督機能をどのように高めていくのか、取締役会議長と社外取締役に話を伺いました。

Q.AIの進展による業界環境の変化についてどのように捉えていますか。

HRガバナンス・リーダーズ株式会社 代表取締役社長CEO
内ヶ﨑 茂
2008年、三菱UFJ信託銀行株式会社入社。2020年4月に同社出資の、日本初のサステナビリティ・ガバナンスの実現を目指すコンサルティング会社「HRガバナンス・リーダーズ」を設立し、現職。経済産業省の「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」に委員として参加し、「取締役会5原則」の策定に携わる。著書に『サステナビリティ・ガバナンス改革』(共著)など。

内ヶ﨑 :ITサービス業界はAIの進展により、大きな転換期を迎えています。2026年初頭には、AIがSaaSやITサービスの事業モデルを揺るがすとの懸念が市場に広がり、国内外のITサービス企業の株価が大幅に下落しました(アンソロピック・ショック)。こうした環境変化と市場からのTISIへの評価をどのようにお感じですか。

古澤 :昨年度は株主・投資家との対話の機会が何度かありましたが、当社グループの潜在的な成長性に対する期待は依然として高いと感じています。一方で、アンソロピック・ショックによって業界各社の株価が影響を受ける中でも、当社株価の下落度合いが相対的に大きかったことは重く受け止めるべきです。当社グループの価値が十分に評価されていないとの判断のもと、株主利益を考えれば必要な施策として自己株式の取得を迅速に決定・実施しました。ただし、これは短期的な施策であり、本質的には成長戦略が極めて重要である旨を取締役会でも発言しました。2026年5月8日には、AI時代における成長戦略の方向性について発信しましたが、今後も成長戦略やその進捗を継続的に発信し、資本市場に理解いただく努力が必要だと感じています。

小野 :AIによってSaaSが置き換えられるのではないか、といった一律的な見方が、サービス化を推進する当社グループへの懸念につながった面はあると思います。ただ、AIは当社グループにとってはむしろ成長の機会で、競争力や変化への柔軟な対応力を高めてくれるものだと期待しています。環境変化を成長へとつなげていくためには、当社グループがAIをどのように活用し、どのような新しい価値を提供していくのか、他社に先駆けて発信し続けることも重要ですね。

桑野 :お二人が言われた通り、業界全体に対する見方が変化する中で、TISIへの影響が相対的に大きかったのは、当社グループの成長戦略とその進展が十分に伝わり切っていないからでしょう。TISIは労働集約型ビジネスから自らのアセットを活用して収益を生み出すサービス型ビジネスへの転換を進めてきました。ペイメント事業などの圧倒的な強みを有する事業領域を核に成長戦略を推進しています。AI活用のテーマは二つ。一つは生産性及び品質の向上、もう一つはお客様に提供する価値をどのように高めていくかです。

内ヶ﨑 :資本市場の懸念を払拭し、期待を企業価値につなげるためには、AI時代にTISIがどう成長していくのかを、より具体的に発信できるかにかかっているといえます。

Q.株主の負託に応える取締役会の責務とは?

内ヶ﨑 :中長期的な経営戦略について取締役会での議論の状況をお聞かせください。

桑野 :2026年7月1日、TISとインテックが合併し、TISIがスタートしました。2027年4月からの次期中期経営計画の策定に着手する非常に良いタイミングです。次期中期経営計画ではAIをいかにグループの価値につなげるかを示す必要があります。取締役会としても執行側が策定する計画案をしっかりモニタリングすることが今年度の最大テーマです。

古澤 :私は2025年6月に当社社外取締役に就任しました。この1年、取締役会では現中期経営計画の達成状況に関する議論が多かったと思います。もちろん、それは重要な議論ですが、予測不能な変化に対応するためには、計画の見直しも含めたより柔軟な議論が必要です。優良な顧客基盤やペイメント事業の圧倒的な強みなどを踏まえると、私は、TISIの成長可能性は高いと感じています。そこにAIをどう活かすかを具体化し、成長戦略を取締役会としてもしっかり議論していく必要があります。こうした考えは、意見交換会においても申し上げてきました。

小野 :取締役会が執行を監督する際に基本となるのは、やはり中期経営計画です。四半期ごとに進捗や達成度を評価し、モニタリングの水準も向上してきましたが、外部環境の変化が非常に速くなっている中では、3カ年計画であっても必要に応じて見直しを求めることも取締役会の監督機能だと思います。
また、取締役会での議論の実効性はさらに高めていく余地があります。中期経営計画など重要性の高いテーマは、正式な議案になる前段階から取締役会メンバーが率直に意見を交わせるようにすることが有効だと思います。

桑野 :取締役会の議長として、アジェンダセッティングや活発な議論を促す運営等は当然の役割です。当社の場合、重要なテーマについては、決議事項として上程される前の段階で意見交換の形で取締役会メンバーが議論する仕組みがあります。今後は、この仕組みをより早い段階から、より積極的に活用し、骨太の方針について議論を深めていくことも、取締役会の実効性を高める一つの方法ですね。

内ヶ﨑 :執行側がまず骨太の方針を策定し、取締役会ではその妥当性を十分議論します。承認後は実行を執行側に委ね、取締役会は実行状況を監督します。この役割分担を明確にすることが、取締役会の機能や実効性をさらに高めるポイントになると理解しました。

Q.監査等委員会設置会社への移行の目的とは。

内ヶ﨑 :監査等委員会設置会社への移行は成長戦略を加速するための基盤整備の一環と理解しています。あらためて、その目的を教えてください。

小野 :さらなるガバナンス向上に向けた取り組みを議論する中で、監査等委員会設置会社への移行がテーマになったと認識しています。私は監査法人において金融機関等の監査に長年従事し、2020年6月から当社の社外監査役を務めてきた経験から、当初は監査役会設置会社でも十分機能すると考えていました。しかし、合併により上場会社でありグループを牽引する中核会社であるTISI自体の事業規模が拡大する中では、監査役個人の活動に依存する形には限界があり、内部統制システムを活用した組織的な監査の重要性が一段と高まります。監査等委員会設置会社は、組織的な監査を行うことを前提とした機関設計です。これからのTISIにはより実効性の高い監査が必要であり、その意味で監査等委員会設置会社が適していると考えるに至りました。

桑野 :監査等委員会設置会社に移行し、監査等委員である取締役が取締役会の決議に加わることも大きな変化ですね。

古澤 :監査等委員会設置会社への移行は取締役会が稼ぐ力を後押しすると同時にガバナンスを強化して社会的信頼を高める意味のある取り組みだと思います。執行側への権限移譲を進めていくと、「本当にガバナンスが効いているのか」という視点はより重要になります。監査等委員会設置会社への移行は、その両方の体制を整えるものですし、株主・投資家にもその意図をご理解いただけるのではないかと思います。

内ヶ﨑 :執行側への権限移譲によって成長戦略実行の質とスピードを高めつつ、組織的な監査によりガバナンスの実効性も高めます。つまり、取締役会が会社の稼ぐ力を後押ししながら、同時に健全なリスクテイクを支える体制に進化させていくということですね。

Q.AI時代の経営人材について教えてください

内ヶ﨑 :AI時代を迎え、サクセッションプランや人材投資は変化していくのでしょうか?

古澤 :組織づくりで経営トップの指名が最重要テーマであることは変わりません。私はIMF(国際通貨基金)でトップ選任や民間企業の社外取締役としてサクセッションにかかわってきましたが、経験上、経営トップにふさわしい人材については、議論を重ねると概ね意見が一致するものです。意思決定やマネジメントにもAIを活用する時代だからこそ、経営トップにはリーダーシップ等の人間力がますます重要になると思います。TISIでは、指名委員会で経営トップの候補者や経営人材について継続的に議論されており、非常に良く機能していると感じています。ただ、経営は社長一人ではなく、優れた経営チームで成り立つものです。社長がどのような経営チームをつくり、どのような執行体制で戦略を実行していくのかについて、指名委員会や取締役会としても、理解を深め、議論していくことが重要です。取締役会は執行側に具体的な施策の実行を委ねつつ、経営チームと十分に連携することが、攻めのガバナンスに不可欠だと思います。

桑野 :私が岡本社長へ交代する際には、現在のサクセッションプランの原型となる取り組みを実施しました。複数候補者に外部機関との面談や360度評価を実施し、「OUR PHILOSOPHY」に関する議論を重ねて、各人の考え方を確認しました。並行して、1年以上の外部のコーチングを通じて、様々なケースを想定しながら経営判断の訓練も行い、最終的に岡本社長が選ばれました。この時のやり方はブラッシュアップされながらも、引き続きTISIのサクセッションプランの基本となっています。
一方で、取締役会メンバーに加えて、執行側メンバーの多様化も今後のテーマだと認識しています。TISとインテックでは役員の年齢層などにも違いがありますが、合併で優れた人材が融合し、TISIとしてより良い経営陣と取締役会を構成できればと考えています。

内ヶ﨑 :経営トップの指名に加えて、社長を支える経営チームの構成や取締役会との連携が攻めのガバナンスにおいて重要になるわけですね。
一方でAI時代における従業員への人材投資・育成についてはどのようにお考えですか。

小野 :これまでも革命的な技術開発はありましたが、AIによって技術革新がこれまで以上に頻繁に起こる時代になると考えています。従業員一人ひとりがAIリテラシーを持つことに加え、頻発するイノベーションに慌てずに対応できるマネジメント人材を多く抱える組織が勝ち抜くのではないでしょうか。

桑野 :TISIはサービス化を推進するために、コンサルタントやデータアナリストなど、従来のシステム開発を行うSEとは異なる職種を増やして人材を多様化してきました。また人材投資への評価ともなる従業員1人当たり営業利益を重要な経営指標として外部に開示しました。ただ、AI時代における人材戦略はまだ議論を尽くす必要があります。TISIがAI時代に目指す事業ポートフォリオ、そのために必要となる人材ポートフォリオ、M&Aによる技術や人材の獲得も含めて、取締役会でも今後しっかり議論していく必要があると考えています。

古澤 :TISIのようなIT企業にとって、人材投資は経営を左右する重要テーマです。特に今後注視していきたいのは合併後の人材配置・評価です。他社では合併後の融合に時間がかかり、優秀な人材が流出する事例も見てきました。TISIでは、これまで以上に人材活用が進む組織づくりを期待していますし、執行側にはそうした観点を求めています。

内ヶ﨑 :AI時代に必要な経営チームづくりだけでなく、人材投資も含めた人材戦略はグループの稼ぐ力の源泉になります。成長戦略と一体で取締役会としても継続的に議論していくべきテーマですね。

Q.企業価値を測る経営指標とは何とお考えですか。

内ヶ﨑 :TISIはPBR(株価純資産倍率)を、企業価値向上に向けた重要指標の一つとしています。中期経営計画を着実に遂行してきた一方で、株価に十分反映されていない面もありますが、企業価値を測る指標について、どのようにお考えでしょうか。

小野 :株価が全てではありませんが、プライム上場企業として株主の負託に応える上では、株価を意識するのは当然のことです。以前、取締役会で株価を経営指標とするかを議論したことがありますが、株価を一時的に上げるテクニカルな施策に陥ってはいけないという考えから採用しませんでした。一方で、サービス、技術力、人材など、企業のあらゆる要素は最終的には市場からの評価に反映されます。今回の株価下落に際しても、外部環境だけでなく、当社自身にも要因がなかったかを振り返り対処していくことが、環境変化をチャンスに変えることにつながると思います。

桑野 :企業価値を測る指標としては様々ですが、私は従業員1人当たりの収益を重視してきました。「OUR PHILOSOPHY」では、TISIの成長とはステークホルダーとの価値交換性を高めることだと定義しており、株主・投資家やお客様とともに、従業員は最も重要なステークホルダーの一つです。従業員1人当たりの収益を高めることは、TISIの成長とともに、従業員に対する報酬、働きがい、社会的信用などを高めることにつながると私は考えています。

古澤 :私は企業価値を表すというとやはりROE、PER、PBRが頭に浮かびますが、その企業が社会に不可欠なインフラとして存在していると社会に認識いただくことも企業価値だと考えています。また、例えば働きがいを重視する若者が増えていますが、数字に表れない企業価値があるのも事実だと思いますね。

内ヶ﨑 :株価やPBRだけでなく、社会インフラを支える存在であることや、従業員が誇りを持って働けることも、企業価値の重要な構成要素だといえます。以前に岡本社長が「当社グループがどういう未来を描き、どこへどのように向かおうとしているのか、その実現性と実行力が問われている」と話されましたが、株主・投資家も、TISIが描く未来と、その実現方法を知りたいのだと思います。取締役会として会社の進むべき方向性を示し、資本市場との対話につなげていくことが重要だと感じました。

Q.最後に、今後どのような役割を発揮していきたいかお聞かせください。

小野 :監査等委員会設置会社への移行はガバナンスを強化するゴールではなく新たなスタートです。監査等委員として新しい機関設計による成果を挙げるべく運用に努め、結果として企業価値の向上につながっていけばと思っています。

古澤 :環境変化と新会社のスタート、次期中期経営計画の策定が良いタイミングで重なりました。取締役会は監督する立場ですが、意識としては執行側とともに計画をつくり、責任を共有しながら、現在の環境変化を成長機会に変えていきたいと思います。

桑野 :取締役会の機能を十分に発揮するためには、議長の役割が非常に大きいとあらためて感じています。私自身、執行経験がありますので、執行側の課題認識や実行上の論点も理解した上で、取締役会で本質的な議論が活発になされるように引き続き心がけていきたいと思います。

内ヶ﨑 :本日お話を伺って、TISIが大きな転換点を迎える中で、持続的な企業価値向上の実現に向けて、取締役会が経営陣を後押しし、資本市場の信頼を得ていくという覚悟を感じました。社会の変革を支えるパートナーとして、さらなる成長を期待しております。ありがとうございました。

2026年9月

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更新日時:2026年10月22日 15時38分