#15 読めただけでは終わらない AI-OCR導入時の課題と設計の考え方
公開日:2026年6月
PDF伝票読み取りの自動化は、「AI-OCRを導入すれば業務を効率化できる」という期待から検討が始まるケースが多く見られます。しかし実際の運用では、帳票が読み取れたとしても、それだけで業務が効率化するとは限りません。請求書発行時の検査業務では、伝票の分割、複数ページにまたがる金額の集計、予定データとの突合など、読み取り後にも業務特有の処理や判断が必要になるためです。
今回のコラムでは、こうした「読み取れたこと」と「業務を処理できること」のギャップを整理したうえで、UiPath製品の一種であるDocument Understanding(以下、本コラムではDUと表記)を取り上げます。AI-OCRの読み取り精度と業務処理をどのように両立させるかという観点から、実務で機能する設計の考え方を解説します。
本コラムを通じて、AI-OCR導入時に見落とされがちな業務上の課題を踏まえ、DUの特性を活かした現実的な設計の考え方を理解いただければ幸いです。
※本コラムは2026年5月現在の情報を基に構成されています。
目次
1.AI-OCR導入だけでは効率化できない要因
その理由は、次の2つに集約されます。
要因1:読み取り精度を安定して高めるためのノウハウが必要であること
PDF伝票は取引先ごとのフォーマット差異や構造の変化が大きく、例外的なレイアウトやページまたがりも少なくありません。そのため、業務で継続利用できる水準の読み取り精度を確保することが求められます。
要因2:業務特有の要件や判断をAI-OCRだけでは完結できないケースがあること
業務処理は単に「読めた」だけでは完結しません。たとえば請求書発行処理では、1つのPDF内に複数の伝票が含まれる場合の伝票分割や、複数ページにまたがる金額の集計、予定データとの突合など、AI-OCRの読み取り結果だけでは完結しない業務が多いです。そのため、後段の処理での補正や判定が必要となってきます。
これらは、実際の現場では以下のような課題として顕在化します。
- 取引先ごとの帳票フォーマットが混在している
- 明細行数の変化によりページ数が変動する
- 1つのPDF伝票内に複数案件が混在している
- 複数ページにまたがる金額を合算する必要がある
- 予定データとPDF伝票の厳密な突合が求められる
このように、AI-OCR単体では対応しきれない業務要件が複数存在します。
そのため、近年は単なる文字認識を超えた文書処理の仕組みが注目されています。今回ご紹介するDUは、定型・非定型を問わず様々な文書をデジタルデータとして読み取り、文字認識にとどまらず文脈や構造を踏まえた処理を実現します。これにより、IDP(Intelligent Document Processing:AIを活用した文書処理の仕組み)として高度な文書処理の自動化が可能となります。
2.業務上のリアルな課題と設計方針
請求書発行業務では、帳票の読み取りだけでなく、その後の集計・突合・判定といった複数の処理が連続的に実施されます。
業務システムから出力されたPDFやExcelデータを起点に、AI-OCRによる読み取りを行い、その後、請求予定データとの突合や集計・判定といった発行業務特有の処理を経て、最終的に人による確認が行われます。
その中で、DUは主に帳票の読み取りや構造化の工程に適用可能であり、その後の集計・突合・判定といった業務判断は後段処理で担います。
このように、請求書発行業務は「データを読み取る処理」と「業務としての判断を行う処理」が組み合わさって構成されています。
本章では、この全体フローを前提として、「DUは読み取りに専念させ、業務判断は後段処理で行う」という設計思想に基づき、個々の課題に対してどのように対応したのかを整理します。
なお、以降の図では、次の表現方法を用います。
DUの機械学習:DUの学習処理および学習データを示します。
AI-OCR処理:AI-OCRでのPDF伝票読み取り処理を示します。
後段の処理:AI-OCR後に実施する業務特有の処理を示します。
課題① 取引先ごとの帳票フォーマットが混在している
この課題に対しては、各フォーマットに対しDUの機能で機械学習を行い対応します。
その際、取引先ごとに異なる帳票フォーマットを一元管理することで、分岐ルールが不要となり、保守性と拡張性を向上させます。
課題② 明細行数の変化によりページ数が変動する
課題③ 1つのPDF伝票内に複数案件が混在している
課題④ 複数ページにまたがる金額を合算する必要がある
上記3つの課題に対しては、AI-OCRの機能により、まずは(1)ページ単位に分割し、その後(2)各ページを読み取ります。
そのうえで、後段の処理により、(3)ページごとの読み取り結果を集計・合算します。
課題⑤ 予定データとPDF伝票の厳密な突合が求められる
「請求書発行時の検査業務」では予定していた取引内容、金額、取引先情報と、PDF伝票の記載内容が一致しているかが重要です。
DUはAI-OCR読み取りに専念し、突合と判定は後段の処理で実施します。
3.誤解されやすい論点:精度の「正しい意味」
ここまでの設計を検討するうえで、もう1つ重要となるのが「精度の捉え方」です。AI-OCRを利用した後段処理の結果として「精度90%」が得られたとします。
ここでいう「精度90%」は、“100伝票のうち90伝票は読み取られる”という意味ではありません。項目単位で見た平均的な抽出精度を示すものです。
この「精度90%」の解釈は下表のとおりです。
| # | 解釈 |
|---|---|
| 解釈の仕方1 |
|
| 解釈の仕方2 |
|
表1:解釈の観点
業務の観点では100伝票のうち90伝票をそのまま処理できる状態をイメージしやすい一方で、AI-OCRにおける精度は、一般的に項目単位で見た平均的な抽出精度を指します。このため、精度90%であっても、すべての伝票がそのまま処理できるとは限らず、一部項目の確認が必要になる可能性があります。
このように「精度」という言葉には解釈の幅があるため、プロジェクトの初期段階でステークホルダー間の認識を合わせておくことが重要です。
4.まとめ
DUを業務に適用する際に重要なのは、AI-OCRの読み取り精度だけを評価するのではなく、後続の集計・突合・判定・人手確認まで含めた全体プロセスとして設計することです。特に請求書のようにフォーマット差異や複数案件混在、複数ページにまたがるケースといった実務上の揺らぎが大きい帳票では、DU単体で完結させようとするほど、かえって運用負荷が高まる可能性があります。
そのため、DUには“正しく読むこと”に集中させ、業務判断は後段処理に委ねるという役割分担が有効です。さらに、最終的には人が確認するポイントをあらかじめ定義しておくことで、精度と運用性のバランスを取りやすくなります。
つまり、読み取り精度を高めること自体が目的ではなく、業務として成立する仕組みを設計することこそが、導入後の手戻りや運用負荷の増大を防ぎ、DU導入の成功につながります。
本コラムが、業務全体を見据えた自動化設計を考えるきっかけとなれば幸いです。
執筆者:藤生 貴司
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