UiPath Automation Cloud移行で失敗しないために~移行前に押さえるべき判断ポイントとリスク対策~
公開日:2026年7月
UiPath Orchestratorをオンプレミス環境で運用している企業において、クラウド環境への移行を検討するケースが増えています。背景には、インフラ運用負荷の軽減や、UiPath製品のアップデート対応の効率化、ガバナンス強化などを目的として、UiPath Automation Cloudの活用が進んでいることが挙げられます。
一方で、各種移行ツールの登場により、「クラウド環境への移行は簡単にできる」と考えられがちです。しかし実際には、移行方針の判断や事前準備を見誤ることで、移行後に運用負荷が増大する、業務影響が発生するなどの課題が生じる可能性もあります。
今回のコラムでは、ツール選定や具体的な作業手順に入る前に、クラウド移行における判断ポイントや、見落とされがちなリスクについて解説します。移行の成功は「ツールの有無」だけではなく、事前の計画や準備にも左右されます。プロジェクト責任者から実務担当者まで、それぞれの立場で考慮すべき点について整理していきます。
<参考:UiPath Orchestratorとは?>
UiPathで開発したロボットの実行管理やスケジューリング・ログ管理・権限管理などを一元的に行うためのプラットフォームです。UiPathでは、オンプレミス版とクラウド版の両方が提供されています。
(本コラムでは以降、オンプレミス環境を現行環境として扱います)
目次
1.クラウド環境への移行の流れ
UiPath Orchestratorのクラウド移行は、ツールの利用だけで完結するものではなく、組織全体の計画と意思決定が成功の鍵となります。ここでは、クラウド移行プロジェクトの全体像と、各タスクにおいてどこが意思決定のポイントとなるかを解説します。
※「★」は特に重要な意思決定ポイントを示しています。
| フェーズ | タスク | 概要 | 意思決定ポイント |
|---|---|---|---|
| 計画・設計 | ①スコープ定義 | 移行対象の確認・整理 | ★ |
| ②制約整理 | 組織ポリシー、セキュリティ要求の確認 |
|
|
| ③移行アプローチ | 単純移行 or 再設計 | ★ | |
| ④切り替え方法 | 一括切り替え or 段階移行 or 並行稼働 | ★ | |
| ⑤移行手段 | 手動移行 or 移行ツール |
|
|
| 準備 | ⑥新環境の準備 | クラウド環境の構築、設定 |
|
| 実行 | ⑦移行作業 | 現行環境からクラウド環境への移行 |
|
| ⑧検証と切り替え | 移行結果の確認、切り替え判断 | ★ |
表1:クラウド移行の工程と意思決定ポイント
計画・設計フェーズ
まずは計画・設計フェーズです。このフェーズでは、5つのタスクを解説します。
①スコープ定義
現行環境の棚卸を行い、移行対象となるロボットやユーザーなどの資産を確定します。
同時に、移行しない資産も明確にします。
★ここが最初の意思決定ポイントです。
②制約整理
業務停止の許容時間や、権限、ログの保存期間といった組織ポリシーを整理します。
加えて、移行対象のボリュームから工数や概算スケジュールも把握しておきます。
③移行アプローチ
現行環境をそのまま移行するか、構成を見直して再設計するかを判断します。
★コスト・品質に加え、将来的な拡張性や運用効率にも影響を及ぼす重要な意思決定です。
④切り替え方法
どのように新環境へ切り替えるかを決定します。
一括切り替え:短期間で一気に切り替えます。
段階移行:業務単位、機能単位で順次切り替えます。
並行稼働:新旧環境を並行運用し、問題がなければ新環境に切り替えます。
★業務影響とリスク許容を踏まえた重要な判断となります。
⑤移行手段
ここまでの検討内容を踏まえ、手動で移行するか、UiPathの移行ツールを利用するかを決めます。
(移行ツールについては次の章で説明します。)
準備フェーズ
移行手段まで決まったら、新環境の準備に進みます。
⑥新環境の準備
テナント作成やフォルダ構成の設定など、新環境の準備を行います。
設定内容は、これまでの検討内容(フォルダ構成や権限設計、移行アプローチなど)を踏まえて、新環境の設定として反映します。
実行フェーズ
最後に、実行フェーズです。計画に基づき移行作業と検証・切り替えを実施します。
このフェーズでは、あらかじめ作業スケジュール(タイムチャート)を作成し、作業順序や開始・終了時間を明確にすることが重要です。あわせて、事前に切り戻し手順や判断基準を整理します。
⑦移行作業
計画に沿って、実際の移行作業を実施します。
⑧検証と切り替え
移行後の動作確認を行い、業務上問題がないことを確認します。
問題がなければ、新環境へ正式に切り替えます。
★ここが最後の意思決定ポイントとなります。
各タスクで十分な検討と意思決定を重ねて進めていくことで、移行後の手戻りや業務影響を抑え、より安定した移行を進めやすくなります。
2.移行ツールの種類と特徴
UiPathの移行ツールには「Migration Tool」と「Orchestrator Manager」の2種類があり、いずれも現行環境のOrchestratorからクラウド版Orchestrator(新環境)への移行の際、一部の作業を自動化する役割を持っています。クラウド移行を検討する際、「どこまで自動化できるのか」「手作業がどれだけ残るのか」は、よく確認されるポイントの一つです。
| 用途 |
|
|---|---|
| 向いているケース | 現行環境の設定や資産をそのまま移行したい、時間をかけずに移行したい |
| 留意点 |
|
表2:Migration Toolの特徴
| 用途 |
|
|---|---|
| 向いているケース | 資産を少しずつ段階的に移行したい場合 |
| 留意点 |
|
表3:Orchestrator Managerの特徴
なお、全ての資産を移行ツールで対応することはできず、一部の資産は手動移行での対応になります。
移行可能な資産の詳細については、下記UiPath公式ガイドをご参照ください。
https://docs.uipath.com/ja/automation-cloud/automation-cloud/latest/admin-guide/using-the-migration-tool
3.移行アプローチと切り替え方法の判断ポイント
クラウド移行においては、「どう移行するか」を決める前に、「どのような考え方で移行するか」を整理することが重要となります。特に、現行環境をそのまま移行するのか、それとも見直しを含めて再設計するのかによって、その後の進め方や工数、リスクは大きく変わります。
ここでは、前章で紹介したクラウド移行の計画・設計フェーズにおける「③移行アプローチ」と「④切り替え方法」に着目し、どのような観点で選択すべきか、その判断ポイントを整理します。
移行アプローチ
移行アプローチでは、現行環境をそのままクラウドに移行する「単純移行」と、クラウド前提で構成を見直す「再設計」のどちらを採用するかを検討します。この判断は、その後の移行作業の難易度やリスク、さらには移行後の運用にも大きく影響します。
単純移行
現行環境の構成を大きく変更せず、そのままクラウドへ移行するアプローチです。
以下のような条件を満たす場合に適しています。
- 現行環境が整理されており、不要な資産が少ない。
- クラウド環境との機能差分が小さい。(認証方式、フォルダ構成、ネットワーク接続要件など)
- 移行後にネットワークやセキュリティ要件を満たせる。(認証方式、接続制御など)
- ロボットが特定の環境に依存していない。(端末、パス、設定など)
- 一時的な業務停止の影響が許容される。
再設計
再設計は、クラウド移行を契機に現行環境の構成や運用を見直し、最適化を図るアプローチです。
以下のような状況では、再設計を検討することで移行後の運用負荷の軽減やリスク低減が期待できます。
- 現行環境が未整理で、不要な資産や用途不明なロボットが多く、統制が効いていない。
- クラウド環境との機能差分が大きい。
- セキュリティ要件が変更となる。
- ロボットが特定の環境に依存している。
このように、移行アプローチの選択は単なる作業方法の違いではなく、適した状況・条件をもとに、「そのまま移すか」または「整備してから移すか」という重要な意思決定が必要となります。
切り替え方法
旧環境から新環境へどのように移行するか、すなわち「どのタイミングで、どの範囲を切り替えるか」を検討します。この選択は、業務への影響や移行リスクに直結するため、移行アプローチと並んで重要な検討項目です。
一括切り替え
ある時点で全ての資産を新環境へ一斉に切り替える方法です。短期間で移行を完了できる一方で、切り替え時に業務停止が発生するため、事前の検証や準備が重要となります。また、問題が発生した場合の影響範囲も大きくなる点にも留意が必要です。
以下のような状況下に適しています。
- 業務停止が許容される。
- 依存関係が少なく、影響範囲が限定されている。
- 構成変更がほとんどない。
- 十分な事前検証が可能である。
段階移行
段階移行は、業務単位や機能単位で対象を分割し、順次新環境へ切り替えていく方法です。
一度に全体を切り替えないため、影響範囲を限定しながら移行を進めることができ、リスクを分散できる点が特徴です。一方で、新旧環境が並行して存在する期間が発生するため、運用上の管理はやや複雑になります。
以下のような場合に適しています。
- 業務停止を最小限に抑えたい。
- ロボット間や業務間に一定の依存関係がある。(ファイル連携、ロボット間連携など)
- 業務影響を見ながら段階的に動作確認を行いたい。
並行稼働
一定期間、旧環境と新環境を同時に稼働させ、処理結果を比較・検証しながら切り替える方法です。安全性が高く、成果物の正確性を確認しやすい一方で、運用負荷やコストが増える点には注意が必要です。
以下のような場合に適しています。
- 業務停止が許容されない。
- 本番環境でしか検証できない。
- 動作確認だけでなく、結果の一致確認(新旧比較)が必要。
このように、切り替え方法の選択は「どこまで業務影響を許容できるか」、「どこまでリスクを抑えたいか」のバランスによって判断されます。
また、移行においては、段階的に切り替えることで影響範囲を抑えつつ、必要に応じて重要な業務については並行稼働による検証を行うなど、状況に応じて複数の方法を組み合わせるケースもあります。
4.躓きやすいポイントとリスク・対応策
これまでに述べてきたように、クラウド移行では複数の判断が必要となりますが、全てのタスクで同じように難易度やリスクが高いわけではありません。特に長期間運用されている環境では、「現在利用されているロボットが把握できない」「担当者が異動して設計意図が分からない」といった状況も少なくありません。情報の整理不足や前提条件の曖昧さによって判断に迷いやすいタスクでは、計画が停滞し、その影響が後続の工程にまで及ぶことがあります。
本章では、移行プロジェクトにおいて特に詰まりやすい代表的なタスクに着目し、そのポイントと想定されるリスクを整理します。
| タスク | 詰まりポイント | リスク |
|---|---|---|
| ①スコープ定義 | 移行対象の洗い出し不足(全体を知っている人がいない) | 移行漏れ、不要な資産を移行 |
| ロボット間や業務間のつながりが把握できない(依存関係) | 後工程で手戻りが発生 | |
| ③移行アプローチ | 各組織の制約事項などを整理できず判断が難しい | 移行方法の決定が遅延する |
| 影響範囲の特定が曖昧 | 移行後に不整合が発生する | |
| ④切り替え方法 | 業務停止条件が整理しきれていない | 想定外の業務停止が発生する |
| 依存関係が整理されていない | 業務影響が拡大する | |
| ⑧検証と切り替え | 検証観点が不足している | 不具合を本番環境に持ち込む |
| 切り替えの判断基準が曖昧 | 切り替え遅延が発生する |
表4:躓きやすいポイントとリスク
対応策
上記で述べたリスクは、あらかじめ整理しておくことで完全に排除できるものではありませんが、適切な準備や進め方によって、その影響を抑えることが期待できます。
ここでは、躓きやすいポイントに対して、どのような観点で対応していくべきか、その主な考え方を解説します。
①スコープ定義
- 各組織にヒアリングのうえ、移行対象のリスト化を行い、用途や稼働状況を整理する。
- ロボット間・業務間の依存関係を可視化し、影響範囲を整理したうえで関係者と共有する。
③移行アプローチ
- 制約事項(セキュリティ・業務・運用)を整理するためのヒアリングを実施し、判断に必要な前提条件を明文化したうえで合意形成を行う。
- 影響範囲(機能・業務・権限)を事前に整理し、想定される差分を洗い出したうえで必要な修正方針を定義する。
④切り替え方法
- 業務ごとの停止許容時間を明確にする。
- 切り替え手順とタイムチャートを事前に作成する。
- ロボット間や業務間の依存関係を整理する。
- 切り替え単位(業務単位/ロボット単位)を事前に定義する。
⑧検証と切り替え
- 検証項目と合格基準をドキュメント化し、関係者と事前に合意を得る。
- 切り替え判断基準を明文化し、切り替え判断の責任者を明確にする。
さいごに
本コラムでは、UiPath Orchestratorのクラウド移行について、移行の流れ、判断ポイント、詰まりやすいリスクとその対応策の観点から整理しました。クラウド移行は、単に環境を移す作業ではなく、「どのように移行するか」を段階的に判断していくプロセスです。そのため、移行アプローチや切り替え方法の選択だけでなく、判断に必要な前提条件を整理しておくことも重要となります。
特に、長期間運用してきた環境や複数部門が利用する環境では、移行前の棚卸しや影響範囲の整理が成功の鍵となります。本コラムで整理した観点をもとに、自社の状況に応じた移行方針を検討いただくことで、より安定したクラウド移行の実現へ向けた一助となれば幸いです。
執筆者:藤生 貴司
※本コラムはTISIエンジニアの実体験・知見に基づく内容を記載していますが、記載された情報や手順が全ての環境で同様に動作することを保証するものではありません。万が一、本コラム内容を参考にしたことによる損害等が生じた場合、当社は責任を負いかねますのでご了承ください。また、記載されている情報はコラム公開時点のものであり、予告なく変更される場合があります。
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